オーナー・借主の双方から手数料を得る「両手取引」
連載第3回で、空室対策は二段構えでの対策が求められると説明しました。一つは、ここまで見てきた「既存入居者の退去抑制」。そしてもう一つは、「新規入居者の獲得」です。
出さない管理にいくら力を入れても、転勤や卒業などにより一定の退去は必ず発生します。退去後に次の入居者を1日でも早く入れるため、入居者募集の工夫も求められます。
新規顧客の獲得でまず重要なのは、「募集間口を広げる」ことです。しかし自社で仲介店舗を持つ仲介管理一体型の管理会社の場合、1社のみで客付けを行うため、入居者募集の効率は圧倒的に悪くなります。
なぜ1社のみでの募集なのか、その背景からまず見ていきましょう。
仲介管理一体型の管理会社はオーナーから月々の管理費だけでなく、ここまで見てきたように入居者募集の際に「広告料」という手数料も受け取っています。仲介管理一体型の管理会社が、入居者とオーナーの双方から得る手数料をまとめると、下記の図表1のようになります。
[図表1]仲介管理一体型の管理会社が受け取る三つの手数料
入居者からは仲介手数料(契約時)として家賃1か月分、オーナーからは管理費(月々)と、広告料(入居者募集時)として家賃1~2か月分をそれぞれもらいます。
ここでの問題点は広告料そのものの存在ではなく、仲介管理一体型の管理会社はこの三つの手数料のすべてを手にしたいという意思が働く点にあります。まず仲介管理一体型の管理会社はオーナーの物件を扱うことで、オーナーから手数料(管理費、広告料)を得ることができます。
その上で、さらに入居者からも手数料(仲介手数料)を得るためには、仲介会社は自社で物件の客付けを行う必要があります。こうしてオーナーと入居者の両方から手数料を受け取ることを「両手」と呼びます(下記の図表2参照)。
[図表2]「両手」と「分かれ」のイメージ
一方、物件情報を他社の仲介会社に提供し、他社で客付けが行われると、入居者が支払う手数料はその客付けをした他社の仲介会社が受け取ることになります。
このように、入居者からの手数料(仲介手数料)は得られず、オーナーからの手数料(管理費、広告料)のみ得られる状態を「分かれ」と呼びます。リーシング(入居者募集)活動において、この利益構造がオーナーにとって何が問題かというと、物件の募集間口が狭くなってしまう点です。
仲介管理一体型の管理会社は「両手」を実現したいわけですから、当然、入居者からの仲介手数料も得るために自社でしか客付けをしなくなります。そうなると、オーナーの物件は仲介管理一体型管理会社の1社のみが専属で募集を行うことになり、入居希望者の目に触れる機会が大きく制限されてしまうのです。
1社専属の募集では入居者は集まりづらい・・・
全国には数多くの賃貸仲介業者が存在します。賃貸住宅仲介業の主要8事業者の合計数だけで見ても、全国に5088店舗(矢野経済研究所、2014年9月末時点)となっています。すべての業者の店舗数を合計すると、その数はさらに何倍にも膨れ上がるでしょう。
物件の周辺エリアのみに絞っても、地域にもよりますが多くの仲介店舗が林立している状況です。にもかかわらず、1社専属で入居者募集をするのが確率的にいかに不利か、理解してもらえるはずです。
もっとも、住宅不足の時代は1社専属の募集でも客付けは問題なくできていました。しかし今後は、1社専属の募集では入居が付かなくなっていきます。募集間口を広げ、成約の確率を高めていかなければなりません。
ところが仲介管理一体型の管理会社は、「両手」という自社の利益を優先するあまり、物件情報を他社に流すことはほとんどないのが現状です。
さらにもう一点、1社専属にこだわる理由があります。仲介管理一体型の管理会社は独占した部屋の情報を「広告塔」(呼び物)として利用し、その部屋を案内してほしい入居希望者はその仲介店舗に行くしかないという状況をつくり出しているのです。
せっかく呼び物を得たのにもかかわらず、他社に情報を流してしまったのでは呼び物としての効果が低下してしまいます。その意味でも仲介管理一体型の管理会社は物件情報を他社に提供することはほとんどありません。