月払いから「日払い」に転換した成功事例
賃貸業界で古くから活躍されてきた人を見ると、業界の常識に捉われすぎていると感じることがよくあります。
以前、次のような悩みを持つオーナーAさんと出会いました。Aさんは都市部から電車で約30分、郊外エリアに賃貸マンションを所有して長く管理をしてこられましたが、あることが原因で入居者が激減し、運営がままならない状況に陥っているといいます。
その理由とは大学の移転です。従来は学生マンションとして客付けが比較的容易だったようですが、大学の移転によって学生の数が減少し、どうにも入居者が集まらないというのです。
家賃を下げてみたものの肝心の学生がいなくなってアピールできず、かといって周辺エリアは賃貸需要がそれほど大きいわけでもない。収入が減って物件のメンテナンスも十分にできず、売却を検討するしか選択肢はないのかと悩まれていました。
長く地主業をしてきた人にとっては、賃貸マンションを「人が住む物件」として運用しています。「賃貸マンションは住まいなのだから、住宅として貸すのが当然だろう」とほとんどのオーナーが思われるはずです。
しかしAさんが所有する物件のエリアは、住まいの需要が減少しているわけですから、「人が住む」という考えに固執しているだけでは解決策を導き出すことはできません。状況を調べてみなければわかりませんが、たとえば賃貸マンションから、素泊まりできる物件へと業態転換を考えてみる方法もあります。
以前、ある地方の賃貸マンションの客付けが厳しくなったことから、日払いで入れる物件へと業態転換して成功した話を耳にしました。該当エリアの市場調査をしてニーズがあれば、ホテル業に接触しないプランを開発する必要はありますが、日払い物件でやっていける可能性は十分見込めると思います。
たとえば私の会社が所在する大阪市の中でも、西成区は日雇い労働者が多いエリアとして知られています。このエリアは1Kで家賃3万円台の賃貸物件も多いのですが、発想を変えると収益を大きく拡大できる可能性を秘めています。1日3000円程度で泊まれる日払い物件にしてしまうのです。
日雇い労働者は長く定住するわけではなく、仕事が見つかれば各地へ働きに出るでしょう。部屋を借りても地方に出れば部屋を空けておくことになりますから、月額で部屋を借りるのはリスクになります。
日払いにすれば必要な日数のみ利用できるため、顧客ニーズに合致しているのです。月額家賃に比べて1日単位の費用は高くなりますが、ひと月に数日しか利用しない人にとってはメリットがあります。
一方のオーナーの利点は収入アップです。月額家賃3万円の物件を日額3000円にすることで、月間収入が9万円になります。「定住」から、「1日単位での商品の切り売り」という発想に転換することで収入が3倍になるのです。
西成区ではそのほか、外国人観光客に向けたアイデアも考えられます。西成区はバックパッカーの受け入れについて地域をあげて推進し、日雇い労働者が使用していた簡易宿泊所をゲストハウスとして改修し、大変盛況をみせているようです。
ホテル業との絡みを考慮に入れながら賃貸マンションをゲストハウス仕様に転換すれば、大幅な収益アップも見込めるでしょう。
あるいはこのようなアイデアもあります。最近はペットと一緒に旅行に出る人が増え、ペットと泊まれる宿泊施設が増えてきました。しかし日本各地に数多く点在するビジネスホテルはペット不可が基本ですから、まだまだ気軽に泊まれる状況には至っていないのが現状です。
そこで賃貸マンションの2LDKなどの部屋をペット可の宿泊施設として提供すれば、利用者に受け入れられると思うのです。日払いプランと同様にホテル業との関係を調整する必要はありますが、実現の可能性はあるのではないでしょうか。
既成概念に縛られず、入居者ニーズを捉えて実行に移す
なぜこのような具体例を紹介したのかといえば、「賃貸マンションは人が住むもの」という常識を解き放ってもらいたいからです。既成概念に縛られず、市場ニーズに耳を傾ければ、アイデアは無尽蔵に浮かんでくるものです。
賃貸経営の強みは、マンションという資産を所有している点です。誰かに住んでもらうという従来の考えだけでなく、その資産を有効に使って〝いかに儲けるか〟という発想を持てば、これまでの常識では思い浮かばなかったアイデアを着想できたりするものです。
課題を浮き彫りにして、市場ニーズを分析しながらその解決策を見つけ出し、実行に移して利益を得るのが本来の経営の姿であり、醍醐味です。
いかに儲けるかを経営判断の基準にすれば、物件を所有するのではなく、売却するのが最善の選択肢になる可能性もあります。
前述のオーナーAさんの場合、大学が移転するのは事前にわかっていたことでしょう。学生数が減少して空室が増えるのは目に見えていたはずですから、その時点で早く売り抜けておくべきでした。
さらに立地条件によっては、企業に売却するという方法も考えられます。店舗を持つ業態の企業は出店候補地を常に探していますから、立地条件によっては高値で売却できる可能性があります。
その経営判断を鈍らせるのは、先代から受け継いだ資産を守り抜かなければならないという思いでしょう。しかし前述したように、手放さずに守るのであればこそ、攻めの経営判断が求められます。
そして攻めの経営判断のためには従来の常識に捉われず、いかに儲けるかという発想で物事を見る必要があるということです。