適正家賃の判断に有効な「実効賃料」
素早く適正家賃に修正することで、稼働率を最大化して空室損失を減らし、EGI(実効総収入)を上昇させる手法もあります。家賃を戦略的に値下げすることで空室率を下げ、収益をアップできるという考え方です。
その場合にオーナーの頭を悩ませるのは、「家賃を下げる方法がベストなのか」「いくら下げるべきなのか」「いつ下げればいいのか」といったことでしょう。こうした疑問は数値で見ることで客観的に判断し、具体的な行動に移ることができます。たとえば、次の二択ではどうでしょう。
「すぐ家賃を下げて早く入居を決めたほうが得策なのか」
「家賃を下げずに粘って入居を決めたほうが得策なのか」
この場合、「実効賃料」で検証すれば判断が容易になります。実効賃料とは、空室損失や賃料差異を差し引いて実際に回収した家賃収入を指します。
下記図表のキャッシュフローツリーのEGIにほぼ該当すると理解していただけるといいでしょう(雑収入や未回収損は考慮していません)。
[図表]キャッシュフローツリー
この実効賃料をベースに、同じ条件で経営手法の異なる三パターンを比較してみます。
<とくに対策をしなかった場合>
家賃:10万円
平均入居期間:3年空室期間:6か月(次の入居者が決まるまでの期間)
実効賃料:10万円×36か月÷(36か月+6か月)≒8万6000円
入居者募集に6か月を要していますが、粘った甲斐あって、家賃を下げることなく10万円で成約できたことに満足するかもしれません。しかし、6か月分の空室損失を加味した実効賃料は8万6000円となり、1万4000円の値下げをして貸したのと同じ状況といえます。
<テナント・リテンションと空室対策を実施した場合>
家賃:10万円
平均入居期間:5年
空室期間:2か月
実効賃料:10万円×60か月÷(60か月+2か月)≒9万7000円
退去の抑制対策によって平均入居期間が5年に延び、空室対策によって空室期間が2か月に短縮しました。こうして入居者回転率が下がり、さらに空室期間も短くなれば、成約時の家賃が同じ10万円のままであっても、前者と比べて実効賃料は1万1000円もプラスになります。
仮に空室期間6か月のままで、平均入居期間が5年に延びた場合の実効賃料は、≒9万1000円で5000円のプラス(テナント・リテンションのみ実施の場合)となります。平均入居期間3年のままで、空室期間が2か月に短縮した場合の実効賃料は≒9万5000円で9000円のプラス(空室対策のみ実施の場合)です。
こうしてみると、それぞれ改善効果が現れています。
<家賃を値下げした場合>
家賃:9万5000円
平均入居期間:3年
空室期間:1か月
実効賃料:9万5000円×36か月÷(36か月+1か月)≒9万2000円
この場合は家賃を値下げしているので、感覚的に損をしているように思います。しかし実際には、とくに対策をしなかった場合よりも実効賃料が6000円も増えています。何もせずに空室期間をダラダラと引き延ばすよりも、家賃をさっと下げて(適正家賃に修正して)、入居を1日でも早く決めるほうが得策だということです。
空室期間が「長く続いた後」に家賃を下げるのはNG
家賃が下がるということは物件価値が低下していることの裏返しですから、再投資によって物件価値と競争力をもう一度引き上げるのが望ましい空室対策です。しかし再投資の資金が不足している場合、こうして家賃を適正価格に戦略的に修正することで、損失を最小限に食い止めることも可能なのです。
いずれにせよ、空室期間が長く続いたあとに家賃の値下げを実施すると二重苦に陥るため、一番やってはいけない経営判断です。
同じマンションでも数値分析を行って最善策を講じれば、結果は必ず変わってきます。頭の中で悩むのではなく、数値分析で効果を客観的に把握しながら、どうすればEGIを最も拡大できるのかを考えた対策を講じるといいでしょう。