「遺産の分け方」は原則3つ
本題に入る前に、基礎知識として遺産の分け方を押さえておきましょう。遺産を分ける方法は原則として3つ、「1. 法定相続」「2. 遺産分割協議」「3. 遺言」です。
「1. 法定相続」とは、民法で定められた相続分に従って分ける方法です。民法では、パターンに応じてそれぞれの相続人がどれくらいの持分割合で相続できるかが決まっていて、この規定通りに分けるのが法定相続です。
「2. 遺産分割協議」は、相続人全員で「遺産をどういうふうに分けるか?」を話し合い、その話し合いどおりに分けるという方法です。
最後の「3. 遺言」は、被相続人が生前に、自分の意思で「自身の相続人にはこんな割合で相続させてあげよう」と決めておく方法です。
遺産分割で最優先されるのは「遺言」だが…
なお、この3つの方法には優先順位があって、優先度の高い順に「遺言>遺産分割協議>法定相続」となっています。遺言が最優先であることは覚えておきましょう。
ですので、仮に遺産分割協議をした後に遺言書が出てきたなどの場合には、遺産分割協議が無効になる可能性があります。相続人どうしで「こうやって分けよう」と遺産分割協議をまとめた後でも、被相続人が「私の遺産はこんなふうに分けなさい」と決めた遺言が出てきた場合には、原則、遺言に従わなくてはいけません。
以上が基本の知識ですが、この基本に基づくと、中には「この遺言書の内容、やっぱり納得できないぞ」と感じたり、遺産分割協議後に「もう一度やり直したい」と考えたりすることもあると思います。遺言書と異なる分け方をすることは可能なのか、また、遺産分割協議のやり直しは可能なのか。それぞれ見ていきましょう。
「遺言書の内容と異なる方法」で遺産を分けたい
遺言書に納得できないケースとして考えられるのは、次の2つでしょう。
1つ目は、遺言書の内容と異なる方法で遺産を分けたい場合。もう1つは、遺産分割協議の後に遺言書が出てきたけれども、相続人で話し合った内容に基づき遺産を分けたいという場合です。
さきほど、遺産の分け方で最も優先されるのは「遺言書」であると述べましたが、遺言書の内容を無視して、遺言書とは異なる分け方をすることはできるのでしょうか?
結論から言うと、一定の条件を満たせば可能です。
条件は4つ。1つ目は、被相続人(=亡くなった方)が遺産分割を禁じていないこと。相続人たちが遺産分割をして遺言書の内容を変えてしまうことのないように、被相続人は遺言書の中で遺産分割協議を禁じることが可能です。これがされていないことが大前提です。
2つ目は、相続人全員が遺言の内容を知ったうえで、遺言と異なる分割を行うことに対して同意している、ということです。もちろん、一部の相続人だけで遺言書と異なる分割方法を決めることはできません。相続人全員が「遺言書はあるけれども、これとは違う内容で遺産分割をしよう」と同意していることが重要です。
3つ目は、相続人以外の「受遺者」がいる場合には、その受遺者の同意を得ていることです。
遺言書では、“遺贈”といって、相続人以外の人に対して「私が亡くなったとき、この不動産をあげます」というように決めておくことができます(※遺贈は、相続人でも受けることが可能です)。遺贈を受けた人が「受遺者」です。
受遺者がいる場合には、当然、遺言書によってその受遺者にも遺産をもらう権利が発生していますから、受遺者を無視して相続人間だけで遺言書の内容と異なる遺産分割の方法を取ることはできません。受遺者がいる場合には、受遺者の同意が必要です。
4つ目は、遺言執行者がいる場合には、遺言書執行者の同意を得ることです。遺言執行者とは、遺言の内容を実現する人です。だいたいは相続人の中から選ばれることが多い一方で、場合によっては第三者である我々司法書士や弁護士といった専門家が指定されている場合もあります。遺言執行者がOKを出さないと、遺言書の内容を変更することはできませんので、ご注意ください。
以上の4つを満たせば、相続人や受遺者、遺言執行者を含めた皆の話し合いによって、遺言書の内容とは異なる方法で遺産分割をすることができます。もし遺言書がある場合でも相続人で話し合いをして「遺言書とは違う遺産分割をしたいな」という流れになったら、条件次第で可能になりますので、ぜひ参考にしてみてください。
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