(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、日本の法制審議会では、これまで「自筆(手書き)」が絶対条件だった遺言書のルールを根本から見直し、デジタル技術をフル活用した「新しい遺言のカタチ」を創設しようと議論が進められています。早ければ数年以内にも、私たちのスマートフォンやパソコンで作成した遺言データが、法的な効力を持つようになるかもしれません。今回は、公開された最新の審議資料から、デジタル遺言が私たちの生活をどう変えるのかを見ていきます。司法書士の佐伯知哉氏が解説します。

遺言書の「手書きの縛り」に潜む重大リスク

現代社会では、パソコンやスマートフォンを利用して文書を作成することが当たり前になっています。それなのに、いざ遺言書となると「一字一句、すべて手書きでなければ無効」という高い壁がありました。

 

この「手書きの縛り」には、実は大きなリスクも隠されています。

 

形式ミスで無効になるリスク

自筆証書遺言では、全文や日付の自書が欠けると無効になるなど、厳格な方式が求められます。

 

心身にかかる負担の重さ

長文をすべて手書きすることは、高齢者や病気の方にとって大きな負担となります。

 

こうした課題を解決し、より多くの人が「最期の意思」を確実に残せるようにするために、デジタル遺言の検討が始まりました。

判明した「デジタル遺言」3つの有力プラン

最新の審議会資料では、デジタル遺言を実現するための3つの主要な案が検討されています。

 

1. 動画で証拠を残す「録音・録画スタイル」

公的機関を介さず、自宅などで手軽に作成できることを想定した案です。

 

作成方法:パソコン等で遺言内容を文字入力し、電磁的記録を作成します。

 

本人証明:2人以上の証人の前で、遺言の内容や日付を口述します。

 

ポイント:そのやり取りの状況を録音・録画した動画データをセットにすることで、遺言の真意を担保します。

 

2. 技術で本人を証明する「電子署名スタイル」

証人を集める手間を省き、一人の力で完結できる案です。

 

作成方法:文字データに対し、マイナンバーカードなどを用いた「電子署名」を行います。

 

本人証明:第三者が関与していない状況で、本人が内容を口述する動画を記録します。

 

ポイント:生体認証などを組み合わせ、本人確認を確実にする措置が検討されています。

 

3. 法務局がデータを預かる「公的保管スタイル」

法務局が遺言データを直接預かる、最も安心感のある案です。

 

作成方法:オンラインで遺言データを作成し、法務局へ送信します。

 

本人証明:マイナンバーカードでの認証に加え、ウェブ会議等を通じて法務局へ内容を口授します。

 

ポイント:国(法務局)がデータを保管するため、紛失や改ざんのリスクに対応できます。

現行の「自筆証書遺言書保管制度」との違いは?

現在運用されている制度と、検討中のデジタル遺言(特に公的保管案)には大きな違いがあります。図表を参照ください。

 

[図表]現行制度とデジタル遺言の比較

 

現行制度は「手書きした紙の遺言書を法務局が預かる」ものですが、デジタル遺言は「最初から最後までデジタルで完結できる」のが最大の違いです。

資産家・投資家が知っておくべきメリット

デジタル遺言の導入は、特に複数の資産を持つ方にとって劇的なメリットをもたらします。

 

財産目録のアップデートが自由自在に

不動産や株式の構成が変わるたびに書き直す必要がなく、データの修正や追加が容易になります。

 

「無効」になる悲劇を防げる

システム側で入力漏れをチェックできるようになれば、形式的なミスによる無効を一定程度防止できます。

 

「ハンコがいらなくなる」可能性

今回の改正では、デジタル化だけでなく、通常の遺言における「押印(ハンコ)」そのものを不要にする案も議論されています。

課題は「なりすまし」「データの消失」

もちろん、デジタルならではの課題も残されています。

 

偽造のリスク

AIやディープフェイク技術により、本人のふりをした動画が作られるおそれがあります。

 

データの管理

民間事業者が関与する場合、事業の継続性や情報の適正な管理が重要になります。

 

こうしたリスクに対応するため、国が信頼できる事業者を認定するなどのルール作りが慎重に進められています。

先延ばしせず、いまのうちから準備を

デジタル遺言の正式な導入にはまだ少し時間がかかりますが、法制審議会でここまで具体的な案が出されているということは、解禁はもはや時間の問題と言えます。

 

「まだ先のこと」と思わずに、いまのうちから自分の資産リストを整理し、どんなメッセージを家族に遺したいか考えておくことは、最高の「心の整理」になります。デジタルという便利な道具が手に入る未来を、前向きに活用する準備を始めてみましょう。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

 

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