相続手続きの難関「故人の銀行口座探し」が一瞬で!?…富裕層の税務調査対策にも役立つ「相続時口座照会制度」とは【司法書士が解説】

相続手続きの難関「故人の銀行口座探し」が一瞬で!?…富裕層の税務調査対策にも役立つ「相続時口座照会制度」とは【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

2025年4月1日に運用開始された、「口座管理法」に基づく「相続時口座照会制度」。相続の「手間」と「コスト」は、この制度を知っているかどうかで天と地ほどの差が生じます。本記事では、この新制度の全貌と、いますぐ着手すべき「備え」について見ていきます。司法書士の佐伯知哉氏が詳しく解説します。

まずは通帳探しから…面倒くさすぎる「遺品整理」に涙目

「父が亡くなったあと、書斎から見たこともない銀行のノベルティやら古いカレンダーが次々と出てきて…。家族が把握している以外にも、まだ口座があるのではないかと、片っ端から近隣の銀行を回りました。仕事もある中で、本当に地獄のような作業でした」

 

これは、相続の現場でよく聞かれる「遺された家族」の悲鳴です。これまで、亡くなった方(被相続人)がどこの銀行に口座を持っていたかを調べるには、遺品の中から通帳やキャッシュカード、あるいは銀行名が入ったポケットティッシュ一つまでをも手がかりに、「当たり」をつけて各金融機関の窓口をしらみつぶしに当たるしかありませんでした。

 

しかし、2025年4月1日。日本の相続シーンは劇的な変化を迎えました。「口座管理法」に基づく「相続時口座照会制度」の運用が開始されたのです。

放置される巨額資産、「各個撃破型」調査の限界…

まず、なぜ国が重い腰を上げてこのような制度を作ったのか、その背景を知る必要があります。

 

日本では、毎年多額の「休眠預金」が発生しています。持ち主が亡くなったことを家族が知らず、あるいは口座の存在そのものに気づかないまま、10年以上放置される預金は年間1,200億円以上にものぼります。

 

これまでの調査方法は、以下のようなステップを踏むのが一般的でした。

 

①遺品整理

通帳、カード、銀行からのハガキ、ノベルティ、スマホのアプリ等を捜索

  ↓

②窓口訪問

各銀行の窓口へ行き、戸籍謄本一式を提示して「名義人の口座があるか」を照会

  ↓

③残高証明書の請求

口座が見つかれば、改めて数千円の手数料を払って証明書を発行

 

この作業を、銀行の数だけ繰り返さなければなりませんでした。特にネット銀行が普及した現代では、物理的な通帳がないため、家族が口座の存在を把握することはかなり難しい状況だったのです。

2025年4月始動の「相続時口座照会制度」

2025年4月に施行された「口座管理法(預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律)」は、まさにこの問題を解決するための切り札です。

 

◆制度の核となる「マイナンバーと口座の紐付け」

この制度の最大のポイントは、「マイナンバー」を鍵として、複数の銀行口座を一括管理・照会できるようになったことにあります。

 

誤解を恐れずに言えば、これまで「バラバラに存在していた点(各銀行口座)」が、「マイナンバーという線」で結ばれたのです。これにより、相続人は特定の窓口に一度申請するだけで、全国の参加金融機関にある被相続人の口座情報をまとめて取得することが可能になりました。

 

◆制度の3つの柱

この制度には利用者が安心・納得して使えるよう、3つの重要な原則があります。


1.任意登録制

銀行口座へのマイナンバー登録は、あくまで本人の意思による「任意」です。無理やり全ての口座が紐付けられるわけではありません(※2026年現在、新規開設時は登録を強く促されますが、既存口座については依然として任意です)。

 

2.一括照会の実現

一度紐付けさえ完了していれば、相続発生時に「預貯金保険機構」を通じて、全ての紐付け済み口座をリストアップできます。

 

3.プライバシーの保護

「マイナンバーを紐付けると、国に貯金額を監視されるのでは?」という不安を持つ方が多いですが、国や自治体に残高や取引明細が自動的に伝わることはありません。あくまで「どこに口座があるか」という所在情報を管理するための仕組みです。

相続時口座照会制度の流れ

では、実際に家族が亡くなった際、どのようにこの制度を使えばよいのでしょうか。手続きの流れをシミュレートしてみましょう。

 

①窓口で申請

相続人の1人が、最寄りの金融機関(この制度に対応している銀行等)の窓口で「相続時口座紹介」の申請を行います。

  ↓

②機構による調査

申請を受けた銀行は、預貯金保険機構に照会をかけます。機構はマイナンバーに紐付いている口座情報を全国の金融機関から集約します。

  ↓

③結果の郵送

概ね数週間から1ヵ月程度で、被相続人が持っていた口座の一覧が、郵送で相続人の元に届きます。

 

これまでは、銀行ごとに戸籍謄本の束を持って回る必要がありました。戸籍謄本を一式揃えるだけでも数千円かかる場合があり、それを複数銀行分用意するだけで大きな出費でした。新制度では、最初の1回だけ正当な相続人であることを証明すれば、あとは機構が裏側で動いてくれるのです。

絶対に知っておくべき「4つの注意点」と「コスト」

夢のような制度に見えますが、当然ながら万能ではありません。司法書士などの専門家が現場で直面している、注意すべきポイントを整理しました。

 

1.「マイナンバー未登録」の口座は出てこない

これが最大の弱点です。この制度で見つけられるのは、生前に本人が「マイナンバーを紐付ける手続きをした口座」だけです。もし、父親が内緒で作った「マイナンバー登録なしの隠し口座」があった場合、この一括照会には引っかかりません。結局、従来通りの「遺品探し」も並行して行う必要があります。

 

2.「手数料5,060円(2026年現在)」と「空振りリスク」

この紹介制度を利用するには、5,060円(税込)の手数料がかかります。仮に調査の結果「1つも口座が見つからなかった」という場合でも、手数料は返金されません。「空振り」のリスクがあることは認識しておくべきでしょう。

 

3.期限は「10年」

照会できるのは、被相続人が亡くなってから10年以内のものです。それ以上経過した古い情報は、制度の対象外となる可能性が高いため、早めの手続きが推奨されます。

 

4.「口座凍結」のトリガーになる可能性

これが実務上の大きな注意点です。紹介申請を行うということは、銀行に対して「名義人が亡くなりました」と宣言することと同義です。これにより、即座に口座が凍結される可能性があります。葬儀費用の支払いや生活費の引き出しなどを済ませる前に申請してしまうと、資金繰りに窮することになりかねません。

生前にやっておくべきこと

もし読者の方が将来の相続を心配する世代、あるいは自身の資産をきれいに遺したいと考えているなら、すぐに「生前の紐付け作業」を行いましょう。

 

自分が亡くなった後に家族を迷わせないためには、以下の2つの方法でマイナンバーと口座を紐付けておくのが「これからの新常識」です。

 

①マイナポータルでの登録

スマートフォンさえあれば、数分で完了します。「公金受取口座」の登録だけでなく、所持している各口座をマイナンバーに紐付ける設定が可能です。これが最も手軽で確実な方法です。

 

②銀行窓口での手続き

メインバンクの窓口へ行き、「マイナンバーをこの口座に紐付けたい」と伝えてください。1つの銀行で手続きをすれば、他の銀行の口座もまとめて紐付けを促進する仕組みも整いつつあります。

 

エンディングノートに銀行名を羅列するのもいいですが、人間は忘れる生き物ですし、ノートを紛失するリスクもあります。システム(マイナンバー)に情報を集約しておくことは、デジタル時代の最も効率的な遺言のひとつと言えるでしょう。

資産防衛としての「見える化」

富裕層にとって、口座の一括紹介制度は「遺漏のない相続税申告」のためにも不可欠です。もし意図せず口座が漏れてしまい、後から税務署の指摘で「隠し資産」とみなされた場合、過少申告加算税や延滞税といった重いペナルティが課されます。この制度を利用して「漏れ」をゼロにすることは、単なる手間の削減だけでなく、「余計な税金を払わないための防衛策」にもなるでしょう。

 

また、2026年現在はインフレや円安の影響で、外貨預金やネット専用の積立口座を持つ人も増えています。これらは通帳が発行されないため、本制度による一括照会の価値は、数年前とは比較にならないほど高まっています。

デジタル相続時代の幕開け

「相続時口座照会制度」は、長らくアナログで不透明だった日本の相続手続きを、デジタルで透明性の高いものへと変える第一歩です。

 

確かに「手数料がかかる」「未登録口座は対象外」といった課題はありますが、それでも「全国の銀行を1軒ずつ回る」という非効率な労働から家族を解放できるメリットは、5,060円という金額を遥かに上回ります。

 

「死後、家族に苦労をかけたくない」そう願うのであれば、今すぐマイナポータルを開き、ご自身の口座とマイナンバーを紐付けてください。その数分の作業が、将来、大切な皆さんのご家族の相続手続きを助けることになるでしょう。

 

相続は、亡くなった後の手続きだけではなく、生きている間の準備も重要です。新しい制度を賢く使い、大切な資産と想いを次世代へ繋いでいきましょう。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

 

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相続税の「税務調査」の実態と対処方法
調査官は重加算税をかけたがる

 

 

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