ウクライナへの軍事侵攻はプーチンの独断と考えられる
プーチン大統領はKGB(旧ソ連国家保安委員会)の出身だ。国家保安委員会には、海外を担当する第一総局(対外諜報担当、SVR=ロシア対外諜報庁の前身)と国内を担当する第二総局があった。第二総局は、現在のFSB(ロシア連邦保安庁=国内秘密警察、KGB第二総局〈防諜・反体制派担当〉の後継機関)の前身だ。国際問題の分析に関して、プーチン大統領は外務省よりもSVRのほうを信頼している。
ナルイシキン長官には、両「人民共和国」を承認すれば、その後、両国がロシアに集団的自衛権の行使を求めてくることになるのがわかっていた。ロシアはそれに応え、ウクライナとの全面戦争に突入する。戦争でロシアが勝利するのは確実だ。だがその後、ロシアと欧米や日本との関係が決定的に悪化する。
2015年の「第2次ミンスク合意」に基づいて、親ロシア派武装勢力が実効支配している地域に「特別の統治体制」を認める憲法改正を行わせる。改正憲法には、ウクライナが外国と条約を結ぶときに「特別の統治体制」となった地域の合意を得ることを約束させる。
そうすれば、親ロシア派武装勢力が実効支配する地域に住むロシア人を擁護できる。さらに、NATO(北大西洋条約機構)にウクライナが加盟することもできなくなる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、このシナリオがわかっていたので「第2次ミンスク合意」の履行を頑なに拒否したのだろう。
「日本経済新聞」の池田元博編集委員が指摘する通り、ウクライナへの軍事侵攻はプーチン大統領自身の決断と考えられる。これはプーチンの戦略に基づいてなされている。その戦略とは、ウクライナをいくつかの小国家に分断して、時間をかけてロシアに併合していくことと思われる。
この点について、ドンバス地方(ルハンスク州、ドネツク州)の事情に詳しいロシアの政治学者アレクサンドル・カザコフは、20年に上梓され話題になった著作『北の狐 ウラジーミル・プーチンの大戦略』(日本語訳『ウラジーミル・プーチンの大戦略』)でこう述べている。
〈例えば、アメリカの大戦略はオープンであると言える。このことから、なぜ、プーチンはその大戦略を秘密にしておくのか問うことも可能だ。答えは、奇妙なことかもしれないが、単純である。
プーチンがその大戦略の秘密を、たとえ近い将来の目的や遠い将来の目的だけでも明らかにすれば、彼は……敗れてしまうだろう。その大戦略が成功するかどうかは、まさにそれがすべての者にとってどれほど秘密のままになっているかに左右されるのだ。
具体的な例を挙げて説明しよう。ウクライナとドンバスについてである。これらの地域に対するプーチンの計画と戦略を知っていると言える者はいるだろうか? 例えば、もし近い将来にドンバスを、そしてその後、崩壊の時を経てウクライナ全体を一部ずつロシアに統合するつもりだとプーチンが公然と宣言したとしたら、この戦略的な目的の達成は容易になるだろうか? むろん、否である。
すべての敵、反対者、そして慎重すぎる友人たちにさえ、プーチンの「グレートゲーム」を破壊するためには、どこに反撃したらいいのか、わかってしまうだろうからだ〉※2
※2 アレクサンドル・カザコフ[原口房枝訳]『ウラジーミル・プーチンの大戦略』東京堂出版、21年
カザコフには今日の事態が2年前に予測できていた。これからのロシア情勢を予測するためには、プーチン大統領が胸の中に秘めている戦略を推定することが死活的に重要になる。そのためには価値判断をいったん保留して、ロシアの政治エリートの発言を詳しく分析する必要がある。
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