今回から数回に跨る連載のテーマは、「眼瞼下垂診断と手術の問題点」と「非切開式次世代の眼瞼下垂治療法」および「切開瘢痕の(メスを用いない)新治療法」についてです。
眼瞼下垂とは?(従来の分類法)
眼瞼下垂(Ptosis)とは、一般的には瞼の開きが充分でない状態を指します。従来なら、先天性・後天性に大別され、先天性のものは挙筋や挙筋腱膜の発育不全・脳神経系の刺激伝達不全や麻痺・眼窩骨や瞼の形質および眼球との位置関係によるもの等に分類されます。
後天性の原因別では、感染性(Bell麻痺など)・外傷性・加齢性・疾患性(脳神経や顔面神経等神経疾患)・医源性、機序別では(アトピー性皮膚炎等の慢性皮膚疾患による継続的擦過や腫脹等・アイプチや化粧(クレンジング)かぶれ・コンタクトレンズやゴーグル装着・スポーツ等による瞼のバッティング・裂傷や刺傷・そして手術により生じる眼瞼下垂(医原的眼瞼下垂)・原因不明などに分類されていました。
切らなくてもいい人(殆どの眼瞼下垂は全切開不要)も全切開されている現状
しかしながら医療の現場では診断基準が厳格に適用されていないことが多く、大学病院においてさえ、医師によって返答内容が異なり混乱が生じているのが現状です。例えば同じ患者でも、A医師には「眼瞼下垂ではない」と診断され、B医師には「重度の眼瞼下垂」と言われた等の食い違いが現場では頻発しています。そしてひとたび「眼瞼下垂」と診断され保険適応(挙筋短縮術や挙筋前転術)となってしまうと、多くの方が取り返しのつかない合併症のいばらの道に誘われてしまうのです。
その原因は、
❶殆どの医師が眼瞼下垂の治療は全切開を伴う挙筋短縮術(眉下切除や挙筋〈腱膜〉前転法を含む)しか方法が無いと思っていること。形成外科専門医ほど正書や論文を研鑽し技術の修行を積んできたため、その概念が捨てきれないこと。または保険診療で認可されている眼瞼下垂の治療法がそれらしかないこと。
❷担当医が主観(開眼時に眉も挙上してしまう方を眼瞼下垂という医師もいれば、前額を抑え込んで瞼が挙がりにくい方を眼瞼下垂と決めている医師もあります)で「眼瞼下垂」と診断していること。或いは保険診療に(医師側の経営方針や金銭欲は別としても)持ち込むためには「眼瞼下垂の疑い」病名をつける裁量が診断した医師側にのみ与えられていて、客観的に検証がなされていないということ(つまり、日本では保険診療にするための「疑い病名」が医師側の理屈でつけ放題であること)。
❸特に日本人は大学病院や専門医に対する権威に弱く、専門家に対する「神話」信仰が根強いため、医師の言うことなら簡単に信じてしまう国民的土壌が必要以上に醸成されてしまっていること。
等の理由や背景があります。勿論、保険適応外であっても全切開二重形成・上眼瞼タルミ切除・切開式眼瞼下垂治療なら同様です。