(※写真はイメージです/PIXTA)

癌治療でも外科でも、救急の現場でも美容分野でも、「医療の名の下の犠牲」が発生する構造が、残念ながら日本の医療にも存在する。これらは何故発生し、どう事前に防げるのか。「美容医療国際職人集団」と言われるJSAS会員であり、高須克弥医師の孫弟子にもあたる医療法人美来会理事長、九野広夫医師に解説いただく。氏は、美容医療の他院修正専門医院を立ち上げ、不幸な医療事故や医療過誤を数多く目にしてきたその道のスペシャリストである。

風化させてはならない事件からの教訓

1980年、美容医療分野とは一見異なりますが、埼玉県で「富士見産婦人科病院事件」という痛ましい事件がありました。理事長の無資格診療と、判明しているだけで30人以上の正常な子宮・卵巣を虚偽の病名をつけて摘出していた疑いのある事件でしたが、密室性の高い院内での事実を証明する確証に乏しかったのか、傷害罪の立件は見送られています。

 

この事件こそ風化させてはならない典型的な教訓だと私は考えます。令和の時代にも医療の現場で、この事件の縮図の様な事案が多発しているのです。2021年には無資格者がHIFU施術で熱傷事故を起こした美容整形医院の記憶も新しいですが、同年プチ整形で複数の失明事故や開業以降死亡事故を10件以上も起こしていながら診療を続けているクリニックも、にわかには信じられませんがこの日本に存在しています。

「富士見産婦人科」構図の温床になりかねない「密室性」

一つの共通項は「密室性」です。特に技術格差の大きい美容医療分野では、集患範囲が町医者の規模ではなく全国区です。すると医療情報は主にHPやSNS等に限られますが、やらせや症例偽造、キャッチステマもファッション化したCMも蔓延る中で、ネット文明が進化しても尚、逆説的ですが真実を見抜くための情報が得られ難い状況が続いています。事実、消費者センターへの苦情が近年増加し続けています。

 

2016年の医療法改正告知に伴い、HPも広告と見做され、一時「BEFORE」「AFTER」の症例写真も一律掲載禁止の方向に医療広告ガイドラインが策定されかけました。規制が緩く無法地帯でも、誤情報や健康被害が増加する構図にはなることは確かです。しかし、医療法の額面通りの名刺広告(所在地と連絡先、医師名、診療科目と診療日のみの情報)だけが許される極端な方向に振り切ると、今度は逆に「密室性」が増し、かえって誤情報や健康被害が増加する「富士見産婦人科」構図の温床にもなり得ます。

 

そこで2016年3月に私は、塩崎恭久議員(当時の厚生労働大臣)がいらっしゃる国会議員会館に赴き、大臣秘書に上記趣旨の陳情書「(中略)ホームページの一律規制強化は困窮する患者の生命線(情報)を絶つ悪政となり得る」を直訴して参りました。その後2018年6月の施行時には、「BEFORE」「AFTER」の症例写真がリスクや合併症の記載条件付きで掲載可能となっていました。勿論、私個人の陳情書だけで法改正の見直しがされた訳では無いと思いますが、一定の歯止めになったのではないかと推察しています。

次ページかの有名な事件のはじまり…

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