何故、上眼瞼は切ってはならないのか?
その理由は明白です。まず全切開を伴う手術では、皮下浅層から挙筋に至る深層迄の組織間に、ミクロレベルの線維化(創傷治癒過程で万人に起こる傷の修復現象の一つ)が多発的に生じます。一日数千回も瞬きをする(滑らかな)動的機能を持った上眼瞼全幅にメスを入れると、どんなに慎重で経験豊富な名医でも瘢痕治癒過程で生じる線維化や硬化、癒着、切断筋の萎縮、皮膚や真皮の厚みの差、開閉眼の動きの自然さ等をmm単位で予測することは人間業である以上、絶対に不可能なのです。
更に従来の眼瞼下垂手術では、全切開後に瞼の深層にある挙筋腱膜まで展開して露出させ、一旦切断して重ねる(縫合する)短縮術と、切断せずに挙筋腱膜を一往復半折畳んで短縮(タッキング縫合)する前転術があります。いずれも挙筋や挙筋腱膜に不可逆的ダメージが加わり、本来の滑らかな伸縮機能が損なわれ、2枚・3枚分に重なった挙筋腱膜分だけ、開眼時に閊(つか)えることがあります。
加えて、挙筋腱膜の目頭側と目尻側のブランチが短縮されず、開眼時には上眼瞼中央部だけが過挙上(過矯正)となることが多く三角形の目の形になり、場合によっては上手く閉眼もできなくなるのです。
もっとも、私自身は全切開手術ができない外科医ではありません。下眼瞼や目頭ならmm以下単位で寸分狂いなく切除縫合もできますし、予後も良好です。しかし、切開の対象が上眼瞼全幅である場合が大問題なのです。つまり上眼瞼を全切開されてしまったら、担当医でさえ治せない合併症が数多く存在しているからなのです。個別の医師の技能の問題でなく、術式そのものに欠陥があるのです。
上眼瞼全切開併用術後の機能障害や他に波及する合併症と美容上の問題
上眼瞼に1回でも全切開を伴う手術を受けてしまうと、不具合の自覚症状が無い方もいらっしゃいますが、少なくとも下記の一つ(多くは複数の)合併症が併発します。
【瞼に生じ得る合併症】
❶二重ライン幅・形:多重ライン・直線的ライン・角ばったライン・枝分れや途切れ
・互い違いライン・凸凹ライン・予定外線・開閉眼時のライン喰い込み度のムラ、等
❷目の大きさ・形:上方三白眼(過挙上・過矯正)・三角眼(目頭・目尻側挙上不全)
・四角眼・睨んだ目つき、等
❸睫毛の形:三角睫毛・逆睫毛・撥ね睫毛・開閉眼時に引っかかる違和感・不揃い睫毛
・外反・内反・粘膜露出、等
❹機能障害:開眼度低下・開閉眼障害・白内障・視力低下や障害・視野狭小・挙筋損傷
・挙筋腱膜損傷・医原的眼瞼下垂・結膜損傷・涙嚢損傷・兎眼・複視・慢性ドライアイ
・痙攣・治らない角膜炎・コンタクトレンズがうまく装着できないこと、等
❺目立つ瘢痕:閉眼時の皮膚質感のムラ・癒着・シコリ・凸凹・縦や斜めのシワ・拘縮
・線維化や石灰化による皮膚や組織肥厚化・化粧で隠せない・化粧のノリが悪い、等
❻全項目に跨る問題点:複雑な左右差・周囲の慢性炎症・(アトピー性)皮膚炎の悪化
・アイプチ補助が必須・化粧かぶれ、等
【瞼以外にも波及する合併症】
❼前額や眉:眉間や前額のシワ増大・眉挙上癖の習慣化・前額や眉の位置の左右差増大
・眼瞼下垂の悪化または多元性眼瞼下垂の発症、等
❽痛みや疲労:原因不明の慢性頭痛・首や肩のコリ・片頭痛の悪化・目の奥の眼精疲労
・前頭筋や皴眉筋の疲労、等
❾顔面全体の歪み:表情筋群の協調不全・笑っていない目・不自然な表情・動的非対称
・人格や社会性を毀損、等
❿内面の問題:睡眠障害・うつ病・引きこもり・内面と外見の自我不一致・情緒不安定
・自律神経失調・精神疾患・服薬依存・自殺企図・自殺、等
これだけの合併症を完全に制御できないにも拘わらず、大抵の担当医は事後的に「数ヵ月様子を見て下さい」「瘢痕が馴染むまで約1年かかります」「合併症とはこんなものです」と述べるに留まります。そして不具合や合併症が重篤または治らない場合に多くの外科医が選択する方法が、再度「全切開」を伴う術式です。
担当医が名医であってもロシアンルーレット以上の確率で危険です。皮膚移植、脂肪やヒアルロン酸等の注入、レーザー照射等も試された方もいらっしゃいますが、こうなると最早人体実験です。これらの方法で上手くいく訳がありません。従来から全切開後の合併症を治す治療法が確立されていないので、ますます深刻になってゆくだけです。