(画像はイメージです/PIXTA)

働いた分の残業代が支払われない、経営不振により支払いが滞るなど、給与の未払い問題は労働者の生活を困窮させる可能性もあり、重大な社会問題です。労働者には会社に未払い給与を請求する権利がありますが、直接交渉しても相手にされないことも多く、泣き寝入りしてしまうようなケースも少なくありません。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、吉田 倫子弁護士に解説していただきました。

 

未払いの残業代・休日手当、請求は可能なのか

相談者の伊藤ケンタさん(男性・仮名)は勤務先の就業実態について疑問を抱いており、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の5点について相談しました。

 

  1. 会社の規則があっても、残業代は1分単位で出るのでしょうか。
  2. タイムカードがあるのに「15分ごとに残業申請しろ」と言われ、残業申請用紙に書かされています。こちらに書いていない分の給与は請求できるのでしょうか。
  3. 週6勤務・8時間が所定労働時間だが、週40時間を超えた時間分の給与は請求できるのでしょうか。(現状基本給、交通費以外支給はされていません)
  4. 月1で日曜日に24時間いつでも対応しなければいけない緊急携帯当番があります。しかし現状その分の給与を5千円しか貰っていません。5千円を引いた24時間分の給料は請求できるのでしょうか。
  5. 上記のような未払い給与の証拠として、出退勤のメモ、勤務予定表のコピー、Googleマップのタイムラインなども有効でしょうか。

労働時間の計算は、原則として1分単位で計算する

原則として、労働時間は1分単位で計算されます。ただし、残業代計算においては例外的に30分未満の切り下げや30分以上の切り上げを行うことができる場合があります。

 

残業代とは、一般に時間外労働に対する賃金を指すものです。この点、賃金の支払いは、労働基準法において「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とされています(労働基準法第24条)。

 

そうしますと、会社は、労働時間に対応する全額を支払わなければなりませんから、例えば会社が1時間未満の残業時間は切り捨てて残業代を支払うなどとということは許されません。

 

他方で、厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発第150号)では、以下の取り扱いについては、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものであるから、許されるとされています。

 

「1ヵ月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。」

 

そのため、一定の条件においては、30分未満は切り捨てて、30分以上は切り上げるという端数処理を行うことによって残業時間を計算することが許されています。

残業申請用紙の提出がない場合も、残業代を請求できる可能性がある

残業申請用紙の提出をしない場合でも、会社の指揮命令下において時間外労働をする限りは、残業代の請求をすることができます。

 

労働時間とは、一般に「始業から終業までの拘束時間から休憩時間を除いた実労働時間」を言いますが、判例(最高裁平成12年3月9日判決)では、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定めるもの」であるとしています。

 

上記のとおり、会社の指揮命令下に置かれている業務については、労働時間として残業代を請求することが可能です。

 

この点、残業申請をしていないことが、会社の指揮命令下におかれていないことを裏付けてしまうのではないかとも思われます。たしかに、その面は完全に否定することはできませんが、残業申請をしていないからと言って必ずしも会社の指揮命令下に置かれていないとも言い切れません。

 

会社の指揮命令下にあるかどうかはあくまで客観的に判断されるものであり、業務の内容、明示又は黙示の業務指示の有無、業務の頻度、場所的拘束の有無などを総合的に考慮して、労働時間に該当するかが判断されるからです。

 

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