ロシアから北方四島返還のチャンスを逃した90年代
しかし一度だけ、返還されるチャンスがありました。ボリス・エリツィン大統領の時代(1991〜1999年)です。ロシアは当時ひどい経済不況だったため、日本からの経済支援と引き換えに「北方四島の返還」を考えたのです。
その時に畳み込むような交渉をすればよかったのですが、ロシアの顔色を窺っているうちに日本経済は低迷。逆にロシアは天然資源で潤い、国力を回復させました。日本は好機を逸したのです。
北海道にはなぜ米軍の基地が置かれなかったのか?
米ソ冷戦――。第二次世界大戦後、世界はアメリカ合衆国を中心にした「資本主義・自由主義」の西側諸国と、ソ連を中心にした「共産主義・社会主義」の東側諸国の対立関係が生まれました。
「冷戦」は「直接は対決しない戦争」という意味で、それぞれが攻撃力をもつからこそ、互いに牽制し合う状態が続きました。こうしたなかで、日本の各地に米軍の基地が置かれました。
一つ不思議なのは、北海道に米軍基地がないことです。ロシアを牽制するには、北海道に米軍基地は不可欠と思えます。なぜ、それをしなかったのか?
ひと言で言うと、ソ連との間合いを取るためです。例えば、北海道に米軍基地を置き、ソ連軍と「顔と顔を突き合わせた状態」になったとしましょう。万が一、どちらかの手違いで「攻撃された」とみなされた場合、これに応じなければなりません。
つまり「小さな勘違い」が発火点になり、第三次世界大戦に発展しかねない訳です。危険を回避するには、間合いが必要なのです。
今回、ウクライナの件で、アメリカのバイデン大統領は「軍事介入はしない」と明言しました。言うまでもなく、軍事介入すればロシアと直接対決になってしまうからです。それは他国をも巻き込んだ「第三次世界大戦」の開始を意味します。世界中の誰もがそれを望みません。
しかしその一方で、世界中の多くの地域で、今回のような侵攻が起こったり、小さな紛争が絶え間なく起きたりしているのです。世界は、微妙なバランスの上に成り立っています。それぞれの国には、それぞれの事情があり、思惑がある。どこかがそれを剝むき出しにして暴走すれば、バランスは一気に崩れる。そんな危うい世界に、私たちは生きているのです。
佐藤まさひさ
参議院自民党国会対策委員長代行
自民党国防議員連盟 事務局長