人間の脳は言葉や文章を覚えるのが苦手
一般的に、日常の中で「精緻」という言葉は、非常に詳しく細かいことであったり、とても綿密な様を表したりする意味で使うことが多いと思います。そのため、精緻化と聞くと、細かいところにまで注意を行き届かせるという意味にとられるかもしれません。しかし、認知心理学においては、効率的な記憶のための考え方・方法としての名称として精緻化という言葉を使います。
話はそれますが、一般的に昔からある「記憶術」とよばれるものは、この認知心理学の精緻化の考え方をより具体的な形に落とし込んだものなのです。つまり、認知心理学でいうところの精緻化とは、記憶術の1つ上の階層に位置しているので、抽象レベルが上がった「記憶法」といえるのかもしれません。そのため、使い道がある程度固定されてしまう記憶術に対して、精緻化は自由度が高く汎用性もあるというわけです。
では、認知心理学における記憶法の精緻化とは、どのようなものなのでしょうか。
一言で説明すると、与えられた情報をそのままの形で覚えるのではなく、個人的な新しい意味付けをしてから頭に入れる方法となります。ここでいう「個人的な新しい意味付け」は、その情報の形が元の形と変わるならば何でも結構です。例えば、その情報に対して何かに「気付く」というのも精緻化になり得ます。
仮にimport という英単語を覚えるとした場合、「im- という接頭後は『中へ』の意味でport は『運ぶ』だから、『中へ運ぶ』となり『輸入する』という訳になる」ことに気付くことも精緻化です。あるいは、徳川15代将軍を覚えるときなども、最初に「4人以外は全員名前に『家』が付く」と気付くことができれば、その思考行為自体が精緻化となり記憶能力はアップします。
また、情報の形を変えるという意味では、すでに皆さんもご存知の語呂合わせも精緻化の1つです。先程も述べましたが、歴史の年表を語呂合わせで覚えたり、ほかにも、英単語を語呂合わせで覚えたりした方もいるでしょう。知らずに使っていたと思いますが、これも認知心理学的の観点から有効な方法だったわけです。
少しは情報の形を変えるというイメージがわきましたでしょうか。なお、今使った言葉、「イメージ」も精緻化の方法の1つです。
人間の脳というのは言葉や文章を覚えるのが苦手という話をしました。そしてこれに対して、イメージは頭に入りやすいことを紹介しました。認知心理学からも、イメージ化は精緻化の方法に適合しているので覚えやすいのです。
英単語の例が続きますが、何も意識せずに「英単語→日本語訳」というセットで頭に入れようとすると、極端な言い方をすれば記号を覚えるようなものなので、なかなか脳には定着しないのです。
そこで、ただ文字を覚えようとするのではなく、英単語を見たらその意味のイメージを頭の中に浮かべてみるのです。solve(解く)という単語であれば、自分が試験問題を解いている姿などを頭に描いておくというようなことです。この行為は、文字の形の情報がイメージという形に変換されたので精緻化の1つです。これもまた、心理学で「自己関連付け効果」とよばれる記憶が強化される効果も足すことができるのです。
英単語に限らず、本やテキスト、資料など文字や言葉による情報を覚えるときは、読みながら頭の中に積極的にイメージを浮かべることをすると、記憶能力はアップされます。
ほかにも「情報の形を変える」という視点で考えれば、精緻化の方法はいろいろ見つけられます。先程のイメージ化は頭の中の作業でしたが、実際に描いてみるイメージ化もあります。マインドマップという思考ツールが有名ですが、内容を絵にしてみたり図解してみたりすることも、記憶を強化するためにはとても有効な方法です。
これらの応用で、個別の情報同士をイメージに変え、それをストーリーにすることによって情報を結合して覚えることも可能になります。皆さんも、情報の形を変えるという視点で考えると、独自の精緻化の方法を発見できるかもしれませんよ。
池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター
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