結局は「トップの意向をくんだ予算」に修正される
社長から「予算を作っておいて」と頼まれたので自分が思うように作ったら、これだと売上が少ないだの、利益が足りないだのいわれて結局差し戻される。予算の作成に携わった多くの方にそのような経験があるのではないでしょうか。
骨組みからボトムアップで作る予算には、必ずといっていいほど予算折衝が伴います。もしかすると社長がトップダウンで作る予算よりは緩やかな内容に落ち着くかもしれませんが、結局は社長の意向をくんだ予算に修正されるのです。
それもそのはずです。予算は会社存続のために達成しなければならない重要なものですから、社長にとって妥協できるものではなく、社員の感覚よりも高めに設定せざるをえないのです。社員にとってできるかできないか、ではなく「やる」という一択のなかで「どうやるか」を考えるのがベースとなります。
・大企業の場合は、その業界内で不動の地位を確立させるため
・小規模上場会社の場合は、前年同期を超える利益を獲得して株価を上げるため
・上場準備会社の場合は、上場に必要な目標利益を達成するため
・中小企業の場合は、借入金を返すため、会社を利益体質にして事業承継に備えるため
・スタートアップ企業は、資金が枯渇するまでに成果を挙げるため
それぞれのステージや事情に応じ、各社にとって存続をかけた、あるいは輝かしい未来をかけた戦いがあります。それらを勝ち抜くために、会社は予算というハードルを設けてクリアしていかねばならないのです。
そのための社長のプレッシャーは、社員にはわからないかもしれません。何にせよ社員にとっては、「そんな社長の心情は理解しました。だったら最低限、達成させるべき重要数値は社長が決めればいいじゃないですか」となるのではと思います。
まさにその通り。予算は社長が社員に課すハードル、あるいは願いでもあるわけですから、社員に歩み寄ってもらうのを待つのではなく、積極的に自ら示したらよいのです。
なお、予算の隅から隅までを作るのはあまりにも細々した作業になりますから、さすがにそこは社長がやらなくてもよいかもしれません。少なくとも本書では、重要数値以外の詳細は各活動単位の責任者や担当者が考えるべき、という立場をとりたいと思います。
川崎 晴一郎
公認会計士・税理士
KMS経営会計事務所・株式会社KMS代表