昭和50年代、名古屋の賃貸業をメインとする不動産会社で、入社間もない若手営業マンが社長のムチャぶりで刊行した「住宅情報雑誌」は、紆余曲折を経ながらも、着実に販路を拡大し、発行部数を増やしていきました。そして、創刊5年目にして転機が訪れます。編集部を増員し、月2回発行体制になりました。時を同じくして、ライバル誌も続々と参入してきました。そんななか、最終的に勝敗を決定づけたものとは…。

ロングセラーの秘訣「読者目線」「真摯編集」

ほとんどのライバル誌が短命で終わったのに対して「アパートニュース」は生き残り、その後37年もの間ロングセラーになりました。その理由は大きく2つあると私は分析しています。「読者目線」と「真摯な編集姿勢」です。

 

この2点は創刊時に掲げてから常に大切にしてきた「7つの誓約」を体現したものです。

 

成功の秘訣1「読者目線」の部屋探しをしている

人がどういう情報を求めているか、どういう情報があると助かるかを、読者の立場になって考えることを大切にしてきました。

 

そのようにして考えていくと、部屋の中身がイメージできるビジュアル(写真や間取図、物件までの案内図)や、入居時に必要になる費用リスト(家賃、敷金など)が重要であると気づき、それらの情報をすべての物件情報に掲載するようにしました。

 

例えば費用は予算を立てるときに役立ちます。初めて賃貸を借りる人によくある失敗として、家賃の額だけで物件を選んでしまうことがあります。1カ月5万円と予算を立てている場合、入居時にかかる費用は5万円では済みません。敷金や礼金、保険代などが必要になるケースが多く、家賃の5倍程度かかるのが相場です。

 

せっかく予算内に収まるお気に入りの部屋に出会えたと思ったのに、諸費用のために諦めざるを得ずぬか喜びということにならないために、初期費用のリストを明記することを徹底しました。

 

こちらの事情や都合は二の次にして、第一に「本当に読者が求めている情報を分かりやすく届ける」ということを「アパートニュース」では実直に行ったのです。

 

成功の秘訣2「真摯な編集姿勢」

これはずいぶんあとのことですが、あるポータルサイトに物件を出稿する際に編集長とお会いする機会があり、そのときに言われたのが「御社の『アパートニュース』の情報内容の正確さを複数物件チェックしたが、駅からの徒歩分数が一件ももれなく正確に表示されていた。全国の媒体をチェックしたがごまかしも多いなか、真摯な姿勢はすごいことだ」という言葉でした。

 

私が本誌を立ち上げるときから大切にしてきたことは嘘をつかないことでした。また「アパートニュース」の歴代の編集長たちも物件の記載内容の正確さを徹底し、おとり広告をしないことなどを厳格に守ってきました。

 

おとり広告とは、本当は空室ではないのにあたかも入居募集しているかのように偽って掲載する広告のことです。おとりの物件は相場より家賃がかなりお得に表示されていて魅力的なため、読者はそれを目当てに問い合わせをしてきます。読者がエサに引っかかるのを待っていた営業が「申し訳ありません、その物件は人気ですぐに決まってしまいました」と言ってほかの物件を紹介するという営業手法の1つです。

 

このように情報に1つでも嘘や誇張があれば自社が信頼を失うだけでなく、業界全体に害悪を及ぼすことになります。賃貸住宅情報誌が社会的に認知され続けるために、嘘をつかないことは最もベーシックで重要な約束事なのです。

 

7つの誓約を忠実に守ってきたことが「アパートニュース」の個性を確立し、ほかにはない賃貸住宅情報誌になれたのだと確信しています。

 

 

加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長

 

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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