入居者の不満の芽を摘むことで、退去リスクを減らす
そもそも空室対策は、空いてから行うものではありません。
満室時は通常、オーナーの多くは「部屋は埋まっているのだから費用や手間をかける必要はない」と考え、何の手も打たないでしょう。当初はそれで収益が出るかもしれませんが、そのままの状態が長く続くことはありません。税金も徴収されますし、手元にお金があれば無駄に消費してしまうかもしれません。
何より、物件の価値と競争力は時間の経過とともに低下していきます。たとえばある物件に5年間居住したAさんが退去しました。Aさんが部屋を借りた5年前の時点より、退去したいまのほうが、その「部屋の価値」は下がっています。
次の入居者を同じ家賃で決めるためには、エアコンなどの設備を追加するか、リフォームに費用をかける必要があるでしょう。あるいは早く入居を決めるために、戦略的に家賃を下げる必要があるかもしれません(0円賃貸という手段がありますが、ここでは選択肢に入れずに進めます)。
しかし、ここで考えてみてほしいのです。Aさんが退去したあと、家賃を下げるか設備を追加しなければ借り手がつかないということは、Aさんが暮らした5年間の後半は、Aさんは下がっていた物件価値と比べて高い家賃を払い続けていたということになります。
Aさんは相場より家賃が高いことに不満を感じて退去を決めたのかもしれませんし、現状より設備が充実した物件に引っ越したいと思ったのかもしれません。そうした何らかの不満が引き金となり、本当は5年以上暮らそうと思っていたのを諦めて、引越時期を早めたのかもしれないのです。
そうではなかったとしても、物件に何らかの不満を持った退去予備軍は、Aさん以外にもまだまだ存在すると考えたほうが賢明です。
従来の空室対策のように入居中は何もせず、退去してから費用をかけるやり方を続けていると、既存入居者の不満の芽を放置し、退去時期を早める(=入居者回転率を高める)ことにつながりかねないのです。
退去による空室損失を被った上、低下した物件価値と競争力を高めるために、大幅に家賃を下げるか大きな費用をかけて再投資をしなければなりません。
入居者の希望を叶えることが、物件価値の向上に繋がる
一方、Aさんが暮らした5年の間に、Aさんが希望する設備を導入するといった小さな手間をかけていればどうでしょうか。
少なくとも、物件に対する不満を原因とした退去は防げます。退去するにしても入居期間を長くできたかもしれませんし、そもそもAさんの今回の退去自体、防げたかもしれません。仮に退去を抑止できた場合、家賃5か月分の空室損失は発生しないわけですから、収支は相当改善するといえます。
さらに大切なのは物件価値の維持・向上です。Aさんの居住中も小さな手間をかけるということは、物件の価値と競争力を維持することにつながります。そのため、次の入居者のために特別に大きな費用をかける必要がなくなります(下記図表を参照)。
[図表]修繕、設備投資時期の違いによる収入の差
時間の経過とともに物件の価値は低下していくわけですから、その価値の低下をいかに食い止めるかが物件競争力を保つために不可欠となります。
いずれにせよ、入居者が退去すれば、その時点でリフォーム費用などをかけることになるのです。であるならば、なぜその費用を既存入居者(解約予備軍)に還元(投資)しないのでしょうか。長く住んでいる入居者(お得意様)に対して、なぜ潜在している不満を聞き出して対策しないのでしょうか。
既存入居者に還元し続けることで入居者満足度を高めることにつながるだけでなく、物件の価値を維持・向上させ、その結果として、物件価格と競争力も同時に維持・向上させることになるのです。
賃貸マンション経営は商売であり、投資であり、経営です。オーナーが単に商売のやり方を知らないのか、部屋が埋まっていればそれでいいという理由で行動していないだけなのか、あるいは管理会社がオーナーの利益を考えずに何も対策の手を打っていないのか・・・。
商売の基本を徹底し、既存入居者に投資して既存入居者の退去を減らすことが、投資効率も良く、収益が安定することは明白です。