前回は、賃貸マンション経営の成否を左右する「管理会社」の選び方を説明しました。今回は、空室損失を最大限軽減できる、「二段構えの対策」について見ていきます。

数少ない顧客を「取り合う」状況が続く不動産業界

賃貸業界では、春は繁忙期といわれます。入学や卒業、入社や部署の配置転換などで引っ越しをする人が多く、仲介店舗の来店客が増えるからです。

 

「繁忙期は勝負なので、この時期にがんばって部屋を埋めよう」

 

仲介店舗の営業マンは普段よりも顧客(入居希望者)対応に力を入れることでしょう。しかし、本当に春は「繁忙期」なのでしょうか? 実際は、顧客は「たくさん来店する」のではなく、ただ「動く」だけです。

 

たとえば1000席の会場が800席埋まっているとすると、空席は200席。これが現在の全国的な空室率の状況と思ってください。春の繁忙期と呼ばれる時期になると、200人の顧客が一斉に席を立ち、他の会場に移っていきます。入れ替わりに、200人の新たな顧客が来場し、空いている400席の中から自分が座る椅子を探します。

 

仲介会社の立場でいえば、400の空席がある中で、新たに会場に入ってきた200人の顧客を奪い合っているだけなのです。400の空席はそのまま残っていますから、さながら椅子取りゲームと正反対の光景といえます。

 

さらにいえば、新築賃貸住宅は毎年建ち続けているため、400の空席自体も増え続けている一方、人口減少社会によって200人の顧客は年々減っていっています。結果として、〝逆椅子取りゲーム〟の競争はますます激化していきます。

 

本当の意味で繁忙期と呼ぶためには、会場を出ていく人数に対して、それ以上の数の人がやって来て椅子を取り合い、空席の数が減ることでしょう。新たに300人がやってくれば空席は100席に減り、賃貸業界全体の繁栄につながります。にもかかわらず実際には、空席の数は同じなのに繁忙期と見なしている。

 

理由は、仲介会社の立場では、退去する人と部屋を借りる人の「動き」が多いほど、入居者を「仲介」する機会が増え、仲介手数料と広告料を稼げるからです。

 

オーナーの立場になれば、退去が増えると空室損失が増大し、家賃収入が減少するわけですから、できる限り退去を抑制して満室経営を長く維持しなければなりません。仲介会社にとっての書き入れ時である春の入退去シーズンは、オーナーにとっては損失が拡大する冬の時期といえます。

「解約率」と「入居者回転率」を下げることが最重要

オーナーと同じ立場で物件を運営するPM型管理会社の場合、退去が増えると入居率が下がり、利益が減少することになります。したがってPM型管理会社もオーナーと同様、常に入居率を下げないよう努力が求められる時期となります。

 

そのため、繁忙期前にはオーナーにテナント・リテンションの提案をするとともに、入居者募集にもより一層力を入れるという、二段構えの空室対策を行っていきます。

 

しかし仲介管理一体型の管理会社は自社の利益を優先し、退去を歓迎する立場を崩すことはありません。日本の賃貸業界は大きな矛盾を抱えていることが改めて理解できるでしょう。空室対策は、この「逆」椅子取りゲームに置き換えて、次の二つの視点で対策を行う必要があります。

 

①席を立とうとしている人に長く椅子に座ってもらう(=既存入居者の退去を減らす)

②新たに席を探している人に選んでもらえるようにする(新規入居者の獲得)

 

中でも私は、「既存入居者の退去を減らす」対策が先決だと思っています。退去による空室損失を考えると、解約率を下げて、入居期間を延ばす(=入居者回転率を下げる)のが最大の空室対策だからです。

本連載は、2015年12月10日刊行の書籍『入居希望者が殺到する驚異の0円賃貸スキーム』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

入居希望者が殺到する 驚異の0円賃貸スキーム

入居希望者が殺到する 驚異の0円賃貸スキーム

池田 建学

幻冬舎メディアコンサルティング

大家が抱える最も悩ましいリスクは空室だが、これまで賃貸不動産で客付けをしようと思えば、「家賃を下げる」「リノベーションなどをして付加価値をつける」「広告料を仲介会社に多く払う」方法しかありませんでした。 にもか…

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