内見は物件をアピールできる絶好の機会
入居者回転率を下げるためにやるべき対策を、もっと具体的に考えていきましょう。
まず前提として、賃貸マンション経営は「サービス業」であるという捉え方が必要です。不動産投資は投資商品の一つですが、株やFXと違い、運用中に商売(経営)しなければなりません。商売に顧客対応はつきものなので、不動産投資もサービス業の一種といえます。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの誘致活動で世界中に改めて認知されたように、日本はおもてなしの国です。観光に来た外国人が、日本人のサービスレベルの高さに感動するといった話をよく耳にするものです。日本では業種業態を問わず、顧客満足を高めるための接客力や対応力の研鑽に余念がありません。
サービスの質が悪く、顧客に十分な満足を提供できなければ市場から淘汰される厳しい時代ですから、おもてなしというのは企業が生き残る上で重要なポイントのひとつといえるでしょう。
ところが、消費者の目が世界一厳しいといわれるこの日本にあって、なぜか賃貸業界に限っては入居者へのおもてなしがほとんど行われてきませんでした。
たとえば入居希望者が部屋を見に行く内見は、オーナーにとっては商品(所有物件)をアピールできる絶好の機会です。本来であれば、内見に来てくれた入居者を歓迎するためにウエルカムボードを設置したり、オーナーからのメッセージを添えたりするような工夫があって然るべきでしょう。
さらに言えば、部屋や設備の特徴が一目でわかるようポップなどを設置してもいいですし、成約すれば温水洗浄便座を設置するとアピールしてもいいでしょう。実際の暮らしをイメージしやすいよう家具や食器を設置するのも効果的です。
投資効率を考える必要もありますが、契約してくれた人にそのまま家具を無料でプレゼントするといった特典をつければ成約率は向上するはずです。
成約後の対応も重要です。引っ越し当日はバタバタしていて荷解きができなかったりと、生活必需品に結構困るものです。シャンプーやリンス、歯磨きなどのアメニティグッズをプレゼントすれば喜ばれるはずです。物件周辺の地図をさりげなく置いておけば、まだ周辺に不慣れな入居者にオーナーのおもてなしの心を伝えることができるでしょう。
募集図面にひと通りのことは記載していたとしても、部屋探しをしている人がその内容を見て理解しているとは限りません。仲介会社の営業マンがせっかくのアピールポイントを言い忘れている可能性も考えられます。だからこそ内見時に、部屋に営業をさせるのです。
「顧客満足」を高めるためのサービスが必要に
しかし実際、内見の現場の多くは殺風景で、部屋探しをしている人はオーナーから出迎えを受けているという印象は持たないはずです。賃貸業界ではそれが当たり前なのかもしれませんが、だからこそ内見時の部屋の魅せ方を工夫するだけで、競合物件と大きく差別化できるともいえます。
既存入居者への対応も然りです。既存入居者はオーナーにとって利益をもたらしてくれる最大の顧客です。普通なら顧客満足を高めるためのサービスを定期的に提供し、既存入居者の快適な住環境を適切に管理していかなければなりません。
転勤や結婚といったやむを得ない理由による退去は仕方がありませんが、そうやって常に手間をかけつづけることで解約を未然に防ぐことも可能でしょう。
それでも「入居者に対するサービスなんて必要ない」と思われるオーナーは、顧客が毎月5万円や10万円の会費を払っている会員制サービスをご自身で運営していると考えてみてください。世の中にはさまざまな内容や価格帯の会員制サービスがありますが、仮に月会費10万円とすると、年会費は120万円ですから、相応のVIP対応が求められるのが当然ではないでしょうか。
入居者は世帯年収の2割や3割もの資金を投じて〝会費〟を支払っているのです。入居者の側も、そこまで投資をしているわけですからVIP対応を求めるのが本来の姿だと思います。
ところが賃貸物件を提供する側もされる側も、これまでは賃貸の住まいにサービスは存在しないという前提に立ってきた。なぜなら、住宅不足の時代が長く続いたからです。
しかし住宅余りの時代を迎えた今後は違います。入居者は部屋を選びたい放題ですから、少しでも自分の希望に見合った部屋、少しでもオーナーや管理会社の顧客対応やサービスの良い部屋を探し求めるようになっていきます。入居中でもネット検索がありますから、いまの部屋に何らかの不満を持っている入居者は、常により良い部屋を探し求めていることでしょう。
住まいは生活の拠り所。住まいがなければ入居者は困る――そんな考え方に固執して、顧客サービスを怠っているとすれば、その意識を早急に見直さなければなりません。