経営者が会社をより儲かる活動へとスピーディにシフトチェンジするための方法として、売上や販管費などの数値を「経理担当」ではなく、各事業部の「現場社員」が集計すべきだと、公認会計士・税理士の川崎晴一郎氏はいいます。一見、ひとつの部署でまとめて集計したほうが効率的に感じますが、各事業部の現場社員が集計することで会社にどのようなメリットがあるのでしょうか、みていきます。

「秒速決算」では、数値集計は現場の社員が行う

数値の集計担当者は経理部門の担当者でなく、各事業部に所属する現場の社員です。現場社員は関連する数値に最も詳しいので、早ければ月初には今月の着地見込みの集計を完了できるかもしれません。

 

たとえば対企業向け(B2B)の取引をしている場合、今月受注して、すぐ今月の売上になるようなものはほとんどないので、先月中にも今月の売上高(注1)の着地見込みがわかります。費用についても、今月どれくらいの費用が発生するかの予測は月の早い段階で集計可能なものが少なくありません。

 

飲食店などの対消費者向け(B2C)ビジネスの場合は、毎日の売上が読めなかったりするので、月末ギリギリまで売上高および売上原価がわからないかもしれませんが、それでも月末最終日の売上が固まったタイミングで、すぐに営業利益に至る売上高と費用の全容がつかめるようになります。

 

(注1)売上高と売上損益:計算書では売上高と表現されますが、日常会話では売上と表現されることが多いでしょう。両者に重要な意味の差はありません。本書では、月次決算や年次決算などにおける売上の集計値を意味する場合は売上高、そのほか個々の取引により獲得するものなどの場合は売上と表現しています。

目的を果たせる範囲で数値をざっくり集計する

厳密な話をすると、「残業代の集計が正確でない」「実在庫を把握した結果、原価のブレが判明した」「外部システムの精度の問題で売上がまだ暫定値となっている」などの要因によって、月末時点では営業利益にまだ変動要因が残るかもしれません。

 

「秒速決算」では、そういったズレは「誤差」と容認した上で、そこまでの精度は求めません。正確な数値ではなく、「ある程度」正確な数値(注2)で問題ありません。数値把握の目的が果たせれば十分だからです。

(注2)「ある程度正確な数値」:このように記載するものの、経理でより正確な数値が集計された際には、事後的に正確な数値に置き換えましょう。というのも、単月で見ると重要でない誤差も、年間ベースで累積されていくと重要な差異になる可能性があるからです。各月の数値を正確なものに置き換えることで、累積値がより正確なものとなります。

 

数値の精度が多少低かったところで、経営かじ取りを誤るほどの誤差でなければ問題ないわけです。たとえば毎月1億円の営業利益を出している会社にとって、数百万円程度の数字のブレは大した問題にならないのです。それよりも、大枠でも数値をタイムリーに把握するほうが重要です。

 

なお、「秒速決算」による数値と事後の正確な数値の差額を管理したい場合は、売上高、売上原価、販管費の内訳として、差額調整用の科目を別途設けるとよいでしょう。

 

 

川崎 晴一郎

公認会計士・税理士

KMS経営会計事務所・株式会社KMS代表

※本連載は川崎晴一郎氏の著書『秒速決算 ~スピーディに人を動かす管理会計で最高の利益体質をつくる!~』(技術評論社)より一部を抜粋・再編集したものです。

秒速決算

秒速決算

川崎 晴一郎

技術評論社

内容紹介(出版社より) 「月次決算待ちだった経営者が、末端部門の数値までもタイムリーに把握できるようになる」 「儲かる仕事を見定め、社内リソースを適時配分することがスムーズになる」 「経営陣と経理のものだった数…

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