習近平がアリババというかジャック・マーをかなり締め上げています。これはアリババの持っているインフラを支配したいからだと思われます。それはなぜでしょうか。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

習近平がデジタル人民元に固執するワケ

■中国の実体経済

 

中国の場合、実体経済は金融経済に比べて小さいのでしょうか。

 

実体経済はGDPのサイズで表されますが、中国のGDPはいまやアメリカの70%ほどですから、大変な規模です。コロナで少し縮みましたが、アメリカのいまのGDPが名目で約21兆ドルです。中国は約14.7兆ドルになりました。すごいものです。「このままだと2028年には中国がアメリカのGDPを抜いて世界一の経済大国になる」という説まで出ているくらいです。

 

加えて人口が多いのも圧倒的なアドバンテージになると考えていいでしょう。ただ人口構成には留意が必要で、現役世代の層が多ければ成長力が高いのは当然です。一方で65歳以上の高齢者が増えていくと、この人たちが中心になって経済成長を担うというのは現実的ではないし、逆に養っていなかなくてはなりません。

 

中国の場合、1979年に導入された「一人っ子政策」が2015年に撤廃されましたが、少子高齢化の問題が10年後あたりから深刻になると言われてます。アメリカの一部の識者は「中国の成長軌道は、これまで通りにはいかなくなる」と予測し、「アメリカのGDPが中国に抜かれるなんてことは、心配しなくてもいい」としています。

 

「2028年説」は毎年の平均経済成長率から机上計算で逆算していくと、中国のGDPがアメリカを抜くことが根拠になっています。ただ、経済というものはさまざまなことに影響を受けます。2028年までの間に何が起きるかで随分変わってくるでしょう。例えば中国が台湾を併合しようとして、世界が一斉に市場から中国企業を締め出すとか、アメリカドルと香港ドルの交換を停止するといったことが、ないとは言えません。

 

何度も言ってきましたが、中国が最も恐れているのは、人民元に対する信用の崩壊です。アメリカドルと香港ドルの交換ができなくなるということは、すなわち人民元の信用がただちに失墜するということです。そして何よりも、人民元に見切りをつけるのは中国人でしょう。人民元で資産を持っていても仕方ないから、皆堰を切ったように金に替えるとかなんとかしてアメリカドルに替えようとするでしょう。

 

■なぜ習近平はデジタル人民元に固執するのか?

 

一般のキャッシュ(現金)はどういうものか考えてみましょう。

 

まず、匿名性が高い。中国共産党はその匿名性の高さこそが怖いわけです。というのも追跡ができませんから。お金に逃げられてしまうのです。例えば中国人が人民元の札束を香港に持っていって、そこで香港ドル経由でアメリカドルに替えてしまうというようなことをやられてしまうわけです。これでは誰がやったのかがわからない。規制しようとしてもできません。お金が流出しているのに何もできない。

 

口座で銀行から銀行にお金を動かしている場合であれば、追跡可能です。中国共産党当局の監視下に入ります。銀行からデジタル送信して「おいお前、そこで何に使ったんだ」と。要するにお金の動いた履歴が残っているということです。

 

キャッシュの場合、札束にしてどこかに詰め込んでおけば、誰にも気づかれません。例えば日本でも、亡くなった親の家で押し入れに汚い段ボールがあって、遺族がゴミだと思って捨てようとしたら2000万円くらいの札束が出てきたというような話がたまにあります。中国ではさすがに隠し金のスケールが大きく、汚職の高官がキャッシュで貯め込んでいて、捜査に入ったマンションの一室が日本円で数十億円相当の札束で埋まっていた……そんな話が出てきます。

 

次ページ狙いはアリババが持つインフラの価値

本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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