(※写真はイメージです/PIXTA)

成年後見人制度の運用開始から22年が経過しました。この制度も近年では周知されてきましたが、認知症患者の総数から見た利用割合はまだ高いとはいえません。本記事では、しばしば質問が寄せられる、成年後見人制度における〈法定後見〉〈任意後見〉の違いを取り上げます。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

周知されつつある「成年後見人制度」だが…

成年後見人の制度2000年 4月1日に始まってから、今年で22年が経過します。年間で4万件弱の成年後見人などの申立てが行われるようですので、「成年後見人」という言葉も、だいぶん世間一般に浸透してきたようです。

 

ただ、認知症患者全体の総数は、2020年の厚生労働省の発表によると約600万人ともいわれていますので、その利用の割合は決して多いとはいえないと思います。

 

成年後見人を申し立てる理由としては、

 

●遺産分割協議で認知症の方が当事者となり必要

●実家を処分したいが、親が既に認知症である

●親が介護施設に入居し日々の財産管理は困難

●きょうだいである自分も高齢で、これ以上面倒が見られない

 

などが多いです。

 

しかし中には、一部の親族による金銭の使い込みが疑われるため、成年後見制度の活用を検討されている方の相談を受けることがあります。

 

成年後見人が選任されると、基本的にはすべての本人(被成年後見人)の財産は成年後見人が管理することになりますから、こうした事案では、成年後見人は制度では有効といえます。

 

成年後見人制度は、「任意後見契約」と、一般的な「成年後見人」があり、後者は「法定後見」などとも呼ばれています。この2つはよく質問を受けますが、同じ後見でもその内容はだいぶん違う点もあります。

 

以下、私の事務所のHPから引用したものになりますが、Q&A形式で、簡単に区別をまとめていきます。

「法定後見制度」と「任意後見制度」の違いを知りたい

 【相談内容】 

 

横浜市に住む40代女性です。神奈川県内にひとり暮らしをしている父がいるのですが、最近医師から「ごく軽い認知症の傾向がある」と告げられました。

 

現時点では、ほとんど兆候はないのですが、成年後見制度について調べています。

 

そのなかで「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあることが分かりました。

 

法定後見制度と任意後見制度の違いについて教えてください。

同じ「後見」だが、内容はかなり異なっている

 【回 答】 

 

「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つの違いについてよく質問を受けますが、同じ「後見」とはいえ、その内容はだいぶん異なる点があります。

 

「法定後見制度」は、基本的に、家庭裁判所が成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)を選任し、その権限も法律で定められています。一方、「任意後見制度」は、本人が任意後見人となる方やその権限、報酬を自分で決めることができるという違いがあります。

 

そのほかの主な違いは、次のとおりです。

 

★後見人を選ぶ人が違う

《法定後見》

 

「法定後見」では、家庭裁判所が後見人を選任します。

 

後見の申立てをする際に、あらかじめ候補者を届けることはできるのですが、その者が選ばれるとは限りません。家族内での対立や、被後見人の財産に不明点などが多い場合、専門家が後見人に選ばれることも多いです。

 

また、成年後見人がだれになるかに関わらず、いったん申し立てた成年後見人選任の申立てを取り下げることはできません。

 

一度選任された後見人は、原則として辞任などがない限り、被後見人が亡くなるまで後見業務を行います。

 

《任意後見》

 

一方で「任意後見」は、被後見人となるであろう本人が、将来的に成年後見人になってほしい人を自由に選べます。

 

これはいわゆる自然人でも、法人(士業法人やNPO法人など)でも構いません。

 

任意後見はあくまで判断能力が低下する前に、本人と後見人候補者が行う双方の「契約行為」ですので、だれを選ぶかは自由です。

 

ただし、契約を結べるのは、少なくとも本人の判断能力が契約に合意できる程度はある段階に限ります。

 

★任意後見の代理権の範囲は?

 

これは民法で規定された範囲において、被後見人の代理権が当然に付与されます。

 

基本的には財産管理に関するすべての法律行為となります。

 

また成年後見人があずかり知らないところで、被後見人(本人)が締結した契約を取り消すことができます。

 

上記公正証書による任意後見契約で定めた範囲内で代理することができます。

 

しかし、本人が締結した契約を取り消すことはできません。

 

★報酬額が違う

《法定後見》

 

法定後見人は、必要に応じて家庭裁判所に報酬を請求することができます。概ね年に1度程度、家庭裁判所に対して成年後見人が報酬付与の申立てをします。

 

家族が後見人に選任された場合は、報酬を請求しないこともできます。

 

成年後見の報酬額は、法定後見の場合、自分たちで決められるわけではなく、家庭裁判所が金額もすべて判断します。

 

概ね財産額が5000万円くらいまでの場合、報酬は月額で3万円程度が一般的のようです。

 

《任意後見》

 

任意後見の場合、後見人の報酬額は公正証書で作成した任意後見契約で予め決めて記載する必要があります。親族が任意後見人の候補者になる場合は、報酬額なしでも構いません。

 

判断能力が充分なうちに予め行う契約のため、報酬も事前に決める事が可能なのです。

 

★申立てすることができる人

《法定後見》

 

法定の成年後見人選任の申立てを行う事ができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長などです。一般的には親族の申立てが多いのではないでしょうか。

 

《任意後見》

 

任意後見については、任意後見監督人の選任申立を、本人・配偶者・4親等内の親族のほか、任意後見契約の受任者以外に行うことができます(任意後見契約に関する法律第4条1項)。

 

本人の判断能力が低下しているにもかかわらず、任意後見監督人選任申立を行わないような場合には、法定後見(補助・保佐・後見)開始審判の申立を行うこと可能ですが、その後に任意後見監督人選任申立がなされると、原則として法定後見開始審判は取り消されてしまいます。

 

また、いったん契約を交わした任意後見契約の解除するためには、この解除についても公正証書で行う必要があります。

 

★後見監督人等の選任

《法定後見》

 

法定後見人は、必要に応じて家庭裁判所の判断で選任されます。一般的に財産が高額な事案や困難な事案、親族間で対立があったり、親族による使い込みが疑われたりする場合などは、後見監督人がつくケースが多いように思われます。

 

《任意後見》

 

対して任意後見契約の場合、その任意後見契約が発行された場合、後見人が専門職であろうとなかろうと、すべてにおいて任意後見監督人が選任されます。この点、任意後見監督人については専門職が選任されることが通常ですので、この費用も掛かってしまうことにも留意が必要です。

 

法務省:成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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