(※写真はイメージです/PIXTA)

相続財産でしばしば問題になるのが「農地」です。農地は土地活用することが難しく、売却も転用も簡単ではありません。どのような問題が起こりやすいのでしょうか。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

亡き父が保有していた農地を手放したい

 【相談内容】 

 

横浜市在住の父が亡くなりました。父の財産は横浜市の不動産のほか、相模原市に300m2ほどの農地があります。

 

相模原市は父親の実家や本籍がある土地で、祖父の相続時、いわゆる「田分け」として、父のきょうだい全員が少しずつもらった土地のようです。

 

この農地は母に相続してもらいましたが、子ども世代である私たちきょうだいにとっては不要な土地であり、相続したくありません。もちろん、私たちの子どもにも継がせたくありません。

 

この農地を速やかに手放したいのですが、どのような問題があるでしょうか。

売却や譲渡には厳しい要件があり、ハードルが高い

 【回 答】 

 

相続人にとって、土地は必ずしも「喜ばしい資産」とは限らないものとなりました。相続する土地の種類によっては、むしろ、「負の資産」となる可能性もあります。

 

今回の農地の場合、どんな不利益が考えられるでしょうか。

 

●面倒な資産となる可能性が高い「市街化調整区域の農地」

ここでいう農地とは、登記簿上の登記地目が「田」「畑」のものをいいます。

 

農地のままでは実態のある農家にしか売却できず、また、農地以外の転用を行う場合も農業委員会の許可を得なくてはなりません。

 

昭和20年代に作られた農地法の観点として、農家を減らしたくないため、農家をやる気のない人への農地転売を防ごうという趣旨があります。そのため農地法で、農地の売却を規制しています。


上記のような市街化調整区域の農地は、農地法と都市計画法の両方の規制を受けるため、売買しづらい物件です。

 

「市街化区域」は人が住みやすくなるような市街地形成の計画のために、用途地域に基づいて建物が建てられ、都市基盤やインフラの整備が行われています。

 

一方で、「市街化調整区域」は山林や田畑を保全するために開発が規制されています。都市施設の整備も、原則行われません。

 

市街地調整区域の土地は、近隣の市街化区域の土地と比べると、固定資産税評価でもかなり評価が低くなっています。

 

また市街化調整区域内では、インフラの整備も積極的に推進されていないため、住居を建てるときには、水道や電気の引き込み工事が必要になることがあります。

 

●売買や贈与に立ちはだかる「農地法第3条」の壁

農地法第3条が適用されるのは、「農地等」について所有権移転などの売買や贈与をする場合です。

 

例えば、農業を行うために農地を購入、あるいは賃借する場合に、農地法第3条の許可が必要となります。

 

原則として、この農地法3条の許可者は農地所在地の農業委員会です。農地法第4条、及び第5条の許可権者は都道府県知事等であり、許可権者がほかの場合と異なります。

 

さて、農地を農地のまま転用する「農地法第3条の許可」ですが、何が最も面倒なのでしょうか?

 

横浜市ウェブサイト

横浜市中央農業委員会 FAQ

2.農地の権利移動(農地を農地として買いたい、借りたい)⇒農地法第3条許可

 

●農地をもらう側が「農家の資格があるかどうか」精査される

ここでよく問題になるのは、土地をもらう側が「農家」として適格かどうか、どのように農業委員会が判断するのかという点です。

 

この要件が厳しいため、農地法第3条の許可申請は概ね断念してしまいます。

 

たとえば、神奈川県相模原市の場合、土地を受け継ぐ農家の方はすでに2000m2(今回受け継ぐ農地も含めて)ほどの耕作地を有していること等が、農家としての適格判断の要件に含まれてきます。

 

つまり「少しだけ家庭菜園をやっている」程度では、農業委員会が農地法第3条の許可を出してくれない可能性が高いといえます。

 

また、このほかにも、農作業常時従事要件や全部効率利用要件など、さまざまな的確要件があります。

 

以上のような事情から、これらの土地の相続には、まずは専門家に意見を求めたほうがいいでしょう。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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