(※写真はイメージです/PIXTA)

相続発生後、一度は相続登記を行ったものの事情が変わるなどして、登記のやり直しをする場合、それによって「贈与税」「譲渡所得税」が課税されることもあります。なぜそのようなことになるのでしょうか。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

相続登記のやり直しで、贈与税・譲渡所得税がかかる?

 【相談内容】 

 

横浜市に住む父が亡くなったので、父が所有する不動産に、子ども3名で3分の1ずつの共有の相続登記を入れました。

 

その後、事情が変わり、相続登記がいったん完了したあとではありますが、もう一度登記をやり直し、不動産を私の単独名義にしたいと考えています。

 

その場合、「贈与税」や「譲渡所得税」が課税される可能性があると聞きました。

 

私は相続人なのに、贈与税や譲渡所得税が課税されるのは納得がいきません。

新たな財産の移転とみなされ、課税される可能性あり

 【回 答】 

 

遺産分割協議のやり直しによる不動産の権利移転は、新たな財産の移転とみなされて「贈与税」や「譲渡所得税」が課税される可能性があります。

 

遺産分割協議のやり直しにより財産の移転が生じた場合、取得した相続人が無償で取得した場合は贈与税の対象ですし、またはなんらかの対価を支払う場合は、譲渡所得税の対象となる可能性があります。

 

遺産分割協議をやり直す場合としても、そもそもの遺産分割協議を「錯誤」として取り消し、すでに入れられた所有権移転登記を「抹消登記」をするのか、はたまた一旦は決まった結論に対して改めて結論をし直す「合意解除」するのか、2通りが考えられるといえます(『相続登記完了後に、新たな遺産が見つかった…「登記のやり直し」は可能か?』参照)。

 

「合意解除」を前提とした場合、前回の元となった遺産分割協議を前提にしたうえで、「改めて当事者の意思で」相続財産を移転させるわけですから、「贈与税」や「譲渡所得税」が発生することも否定できない気がします。

 

このようなケースは、たとえば、亡き父が所有する不動産について、子A、B、Cが相続人の場合、

 

3分の1:子A

3分の1:子B

3分の1:子C

 

と、相続人3名で各3分の1ずつ相続登記をした不動産を、後日改めて、

 

→ 子A:単独名義

 

という登記が考えられます。

 

これは、登記原因としては「遺産分割」を理由として、

 

B持分全部移転 → 持分3分の1:A

C持分全部移転 → 持分3分の1:A

 

に、それぞれ「持分全部移転」登記をすることになります。

 

登記簿謄本の外形的にみても、「贈与税」や「譲渡所得税」が発生してもやむを得ないといえるかもしれません。

 

一方で、錯誤として抹消した場合、既に入れられた、

 

3分の1:子A

3分の1:子B

3分の1:子C

 

の登記を「所有権抹消」し、亡き父甲の名義の状態に戻す(相続登記を消す)ことになり、あらためて「父甲の死亡日を原因」として、相続登記を入れることになります。

 

3分の1 子A

3分の1 子B

3分の1 子C

 

上記 錯誤により抹消

年月日(父甲の死亡日)相続

所有権移転  相続人 A

 

いったん前回の遺産分割協議を抹消(なかったことに)して、あらためて相続をし直しただけですので、「贈与税」や「譲渡所得税」が発生する余地がないように思えます。

 

残念ながら、登記の原因欄のみでは、この「錯誤」というものが民法第95条に規定する「法律行為の要素の錯誤」なのかまではわかりません。

 

また、登記はあくまでも登記官による法律行為の形式上の審査にすぎません(登記原因証明情報で要件事実の記載はしますが、こちらもあくまで形式的な審査です)。

 

このため、所有権移転登記の抹消は、当事者同士があくまで「錯誤」と主張したとしても、課税当局など第三者にまでその主張が通用するかどうかは、別の話だといえるでしょう。

 

◆平成17年12月15日の国税不服審判所の裁決の例

参考になるかはわかりませんが、平成17年12月15日の国税不服審判所の裁決においては、身分関係(養子縁組をしていたか否かの錯誤)を理由に、遺産分割協議をやり直し「錯誤」による所有権移転登記を抹消したうえで、相続人の1名が新たな相続登記を申請した事案があり、新たに財産を取得したものとして贈与税が課せられた事案があります。

 

相続人は「あくまでも相続で得たもの」として、贈与税の課税処分を不服として申し立ていたようですが、国税不服審判所の裁決において「否定」されています。

 

理由としては、

 

「請求人(相続人)の主張する「錯誤」は、遺産分割協議の動機に関するものであり、この動機が遺産分割協議の際に表示されていたとしても、本件遺産分割の内容と異なる内容の遺産分割協議がされたということにもならないから、民法第95条に規定する法律行為の要素の錯誤ということはできず、結局、請求人の思い違いないし勘違いにすぎないというほかはない。」

 

※ 国税不服審判所(平17.12.15裁決)

 

と指摘されています。

 

要は、「錯誤はあったのだろうが、その錯誤が法律行為の目的に照らして重要なものではない」といえるでしょうか。この採決は民法改正前の話ですが、改正後の民法95条の文言そのものに近いです。

 

また、

 

●詐欺や脅迫にあって遺産分割協議は無効もしくは取消し事由があった場合

 

●また後日、被相続人の遺言が発見されて所有権移転登記を抹消し、相続登記をやり直す場合

 

などは明らかに最初の登記に無効事由がありますので、「贈与税」や「譲渡所得税」が発生する余地はないのではないでしょうか。

 

課税をされなかった事案については、そもそも課税当局との紛争にならないため、裁決や判決などの記録が残らないのでしょう。このため、このような判決や裁決についての記録については、調べた限りでは見つけることはできませんでした。

 

綜合的に勘案しても、上記の採決については、そもそも遺産分割協議のやり直しを数十年の時を経て行っている点も、贈与税を課税するという判断に影響したのではないでしょうか。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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