(※写真はイメージです/PIXTA)

独身で子どもがない方が亡くなると、その方の相続人は多くの場合、きょうだいや甥姪になります。いま寿命を迎える年代の方は、きょうだいが多いケースが多いため、必然的に相続人の数も増え、相続手続きは煩瑣を極め、プロが取り組んでも一筋縄ではいきません。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、多く寄せられるトラブルの実例をもとに、わかりやすく解説します。

「子どものいない方の相続」…留意すべき課題・問題点とは?

これまで筆者の元には「子どものいない方の相続」について、数多くの相談が寄せられてきました。具体的にどんな点が課題や障害になるのか、実際の相談内容から見ていきます。

 

①ほかの相続人を把握していないケース

きょうだいの子、つまり甥姪になると、それぞれの相続人は「いとこ」同士となります。若いときならともかく、40代50代となると、遠い親族関係にあるいとことはほとんど面識もなく、所在地や連絡先が判らないケースもあります。

 

昨今では、役所における戸籍など取得についてもかなり厳格に行われています。その使用目的以外にも、具体的に相続関係を疎明する必要があります。

 

きょうだい・甥姪といった傍系血族の場合、戸籍を取るのがかなり大変です。

 

なぜならば、これらの作業には、

 

①亡くなった人に子どもがいないことを証明

→ 亡くなった方の出生~死亡まですべての戸籍が必要

 

②その亡くなった方ときょうだいであることを証明

→ 亡くなった方の「両親」の戸籍が必要 *兄弟関係の疎明をするため

 

③亡くなった方のきょうだいが、すでに死亡している場合

→ 亡くなった方の「きょうだいの」死亡を示す戸籍が必要

 

という段階を踏まなければならないのです。戸籍取得のたびに、これらをすべて書面で疎明する必要があるのです。具体的には、相続関係を示し、遺産を引き継ぐ権利があることを、戸籍で証明しなければなりません。

 

戸籍は、昭和の前半に出生した方の場合、少なくとも2回は変わっています。

 

昭和:昭和32年法務省令第27号による改製(昭和33年度から昭和39年度にかけて実施)

 

平成:平成6年の法務省令による改製(実際に作業が行われたのは平成20年前後の市区町村が多い)

 

ちなみに、筆者の事務所がある横浜市は、下記のように案内されています。

 

『除籍謄本(除籍全部事項証明書)・除籍抄本(除籍個人事項証明書)・改製原戸籍謄抄本について』

https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/todokede/koseki-juminhyo/shoumei/jyoseki.html

 

女性の場合、結婚などで必ず本籍及び筆頭者が変わっていますし、離婚や養子縁組などでも戸籍に変更があります。

 

それに加えて、きょうだいや甥姪の生存や現住所まで辿っていくとなると、相続などで戸籍取得に慣れている専門職でも、かなり大変な作業です。

②相続登記や手続きを主導する相続人がいない

相続財産は、相続人がほしがる財産ばかりではありません。むしろ最近では「積極的に相続したくない」といった声も増えてきた印象です。

 

たいていの方の相続財産は、「預貯金や有価証券などの財産」と「不動産」に大別されます(上場していない会社を経営しているオーナー社長の場合は自社株式もありますが、これは除きます)。

 

預貯金や上場株式の証券等なら、手間や時間はかかるものの現金化することができますが、不動産は、売却しない限り現金化することができず、売却のためには不動産を承継する相続人を決める必要があります。不動産の登記制度がある以上、不動産の所有者は登記簿謄本上で公示されており、登記名義人が「死者の名義のまま」では売却できません。

 

よく問題となるのは別荘地で、東京や横浜で亡くなられた方の相続でしばしば遭遇します。関東で多い地域は「房総」「那須」「湯沢」「伊豆」「富士五湖周辺」等です。被相続人も晩年は利用せず、子どもをはじめとする相続人も別荘を使った記憶がない、というケースも多くあります。

 

不動産会社に相談しても「無料でも引き取れない」といわれ、そのまま所有していては管理費や修繕積立金が発生するだけなので、お金を出して処分してもらう場合もあります。

 

また、子どものない方が亡くなられた場合、自宅の土地が亡くなられた方の、さらに先代から引き継がれているといったケースもあります。こうなると、空き家となった自宅を処分する必要が出てくるケースが多いでしょう。

 

上記のような「訳アリ不動産」がある場合、別荘地や空き家の管理に関わりたくないという人が大半です。そのため、率先して手続きを行う、専門家に依頼するといった人がだれもいないという状況になることもよくあります。

 

また、地方の不動産で課税標準額が免税点となり、固定資産税等が非課税になっている場合は、当事者意識が薄い、あるいはまったくないため、依然として放置されてしまうことになります。

③不動産を処分したいが、権利者全員の同意が取れない

子どものない方が亡くなった場合、相続人のだれかが登記や売却を進めるにしても、自分で行う場合は「自分の時間」を、専門家に依頼する場合は「金銭」を負担して、相続人の確定させる作業を一から行わなければならないため、大きな負担があります。

 

仮に確定させたとしても、その先には相続人全員での「意思合致」が原則となります。

 

そもそも元々付き合いのない親族同士での連絡の取り合いとなりますし、仮に「関わりたくない」といった選択をする方がいた場合、どのような手続き取るのか、という点で音頭を取る旗振り役の業務が多くなってきます。

 

相続放棄という言葉は、弁護士や司法書士などの専門職においては「家庭裁判所での相続放棄申述」を指しますが、一般の方にとっては「単に遺産を受け取らない」という意思表示を指している方も多くみられます。この2つを取ってみても、取るべき進め方は異なってきます。

 

仮に同意を取ったとしても、相続人が10名などの場合、法定相続分などで登記をしてしまったとすると、その10名がすべて売主であり登記義務者となります。不動産の売却には「契約」と「(引渡)決済」と2回に渡り、売主と買主が面談することも多いので、その手間も大きくなるでしょう。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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