(※写真はイメージです/PIXTA)

相続財産に過疎地の山林等の活用しにくい資産が含まれ、対処に困る人は少なくありません。国も状況を把握しており、「相続土地国庫帰属制度」を設けるなど対応を進めていますが、実際のところ、制度の使い勝手はどうなのでしょうか。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

相続した過疎地の山林、国に引き取ってもらいたい

 【相談内容】 


数年前、横浜市在住の父が死亡しました。相続財産として、横浜市の不動産のほか、父の実家があった九州の過疎地に山林を保有しています。

 

九州の山林は、隣地との境界画定もされていないように見受けられ、また、隣地所有者は所在不明の可能性があります。土地は長年にわたって管理されておらず、現在は竹木が生い茂り、廃屋となった建物はいまにも倒壊しそうです。

 

しかし、所在不明土地に関する土地の法律が改正され、このような土地も国に引き取ってもらえると聞き、期待しています。

 

具体的に、どんな方法を取ればいいのでしょうか。

厳しい要件が定められ、活用に懐疑的な専門家も…

 【回 答】 

 

おそらく、質問者の方が相続したお父様の土地は、いわゆる「相続土地国庫帰属制度」の適応が難しいのではないかと思慮されます。

 

下記の10項目にわたる却下要件、不承認要件のうち、1つでも該当がある場合、この制度を使うことはできません。

 

◆法務省:相続土地国庫帰属制度の「却下要件」

その事由があれば、直ちに通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要すると扱われるもの。

 

承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない(新法2Ⅲ)。

 

一 建物の存する土地 

 

二 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地

 

三 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地

 

四 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地

 

五 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

(※ 土地の管理コストの国への不当な転嫁や、モラルハザードの発生を防止する必要から)

 

⇒ これらのいずれかに該当する場合には、法務大臣は、承認申請を却下しなければならない(新法4Ⅰ②)

 

◆法務省:相続土地国庫帰属制度の「不承認要件」

費用・労力の過分性について個別の判断を要するもの。

 

法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない(新法5Ⅰ)。

 

一 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの

 

二 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地

 

三 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地

 

四 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの

 

五 上記のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

 

⇒ これらのいずれかに該当する場合には、法務大臣は、不承認処分をする(新法5Ⅰ)。

 

そもそも、前段の10項目の条件のうちの「1つでも」当てはまってしまうと、却下か不承認の違いはありますが、いずれにしても申請が受理されません。

 

また、申請者は申請の手数料や承認されたあとの10年分の管理費用などの費用を負担しなければなりません。

 

恐らく相談者の方のお父様の土地は、「却下要件」の五や「不承認要件」の五に当てはまると思われます。

 

地方の山林などでは、このような土地がほとんどだといえるのではないでしょうか。

 

したがって、この制度の積極的な活用について、懐疑的に考えている実務家も多いと思われます。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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