中国とロシアが展開するワクチンの偽情報
■ワクチンに関する中国とロシアの影響工作
▶欧州対外行動局(EEAS)の報告書が中ロの工作を批判
欧州連合(EU)のEEASは、4月28日に公表した報告書で、〈ロシアと中国のメディアが西側諸国の新型コロナワクチンに対する不信感を広めるために、組織的に偽情報を流布している。〉との見解を示したが、報告書の主要点は以下の通り。
・ロシアと中国のメディアは、西側を分断することを目的とした偽情報キャンペーンで、西側の新型コロナワクチンの副作用を強調し、欧米のワクチンは安全ではないと主張している。彼らはとくにファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンを標的にしている。
・中ロ両国は、ゼロサムゲームのロジックに基づく「ワクチン外交」と、欧米のワクチンおよびEU機関に対する信頼を損なうために、偽情報や情報操作を組み合わせた工作をおこなっている。彼らは、これらの目標を達成するために、国営メディアやSNSを利用している。
・ロシアは、政府当局、国営メディアを含む政府全体で、スプートニクVワクチンの宣伝を加速させる一方で、EUなどの西側がロシアに対してワクチン戦争を仕掛け、スプートニクVの信用を失墜させようとしていると主張している。
・中国は自国のワクチンを「世界の公共財」として奨励し、中国のワクチンの入手しやすさと安定した供給を強調し、発展途上国や西バルカン諸国に適していると宣伝している。中国の国営放送は、西側のワクチンの安全性とウイルスの起源について疑問を投げかけた。
・中国の国営メディアは、中国のワクチンについて報道する西側メディアについて、二重基準(ダブルスタンダード)、反中国精神、噂の流布、噓と非難している。
・ロシアのメディアは、「ロシアと中国の国境沿いに米国が管理するバイオ研究所が存在する」という根拠のない主張をくりかえし、「米国の秘密研究所」がコロナウイルスの起源とする陰謀論を流布した。
中国の政府高官もまた、米国のフォート・デトリック生物学研究所からウイルスが発生した可能性があるという陰謀論を展開している。
▶中国国営メデイアが関与した偽情報キャンペーン
ハフポスト日本版によると、2021年7月、スイスのベルン在住の生物学者を名乗るウィルソン・エドワーズがフェイスブックなどを使い、〈(新型)コロナの起源をめぐる調査について、武漢市にあるウイルス研究所から漏れ出た可能性は「極めて低い」などの調査結果を支持した人たちが、「アメリカやあるメディアからの圧力や脅迫に遭った」〉などと証言をした。この証言は、中国の国営メディアなどに相次いで転載された。
しかし、スイス大使館が2021年8月、中国のSNS、ウェイボー(微博)で「ウィルソン・エドワーズという名の国民は存在しない。登記されていない」とその存在を否定している。
フェイスブックはこの事件を調査し、偽情報の拡散などに関わった524のアカウントを削除したという。メタ(2021年10月28日、フェイスブックからメタ・プラットフォームズに会社名を変更)社によると、拡散に関与したネットワークは中国国内で作られたもので、米国や英国の英語話者、そして台湾、香港、チベットなどの中国語話者をターゲットにしていたという。
また調査の結果、四川省に本社がある「四川無声信息技術有限公司」と「世界各地にある中国国営のインフラ企業」に関連がある個人とのつながりがみつかったという。「無声信息」のHPによると、同社は2000年設立のデータセキュリティ企業で、公安部などの中国当局への技術提供をしている。提供サービスには「世論コントロールと誘導システム」とあり、まさに偽情報キャンペーンをおこなう企業である。