ロシアが払う莫大な戦費…戦争が起きるか否かは経済力で決まる

戦争にはいくらお金がかかるのか①

ロシアが払う莫大な戦費…戦争が起きるか否かは経済力で決まる
(※写真はイメージです/PIXTA)

戦争の多くは経済的な対立の延長線上で発生しています。戦争の勝敗のカギを握るのも経済力です。戦争とお金との間には、切っても切り離せない密接なつながりがあるのです。経済評論家の加谷珪一氏が著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)で解説します。

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軍事力はその国の経済力に比例する

戦争には多額のコストがかかります。そのことは多くの人が認識していると思いますが、実際にどのくらいのお金がかかるのか具体的にイメージできる人はあまり多くないでしょう。戦争のコストについては細かく報道されませんし、経済に詳しい人でも、実はよくわかっていないということも多いのです。

 

しかし、戦争の現実はお金そのものです。多くの戦争にお金の問題が関係していますし、兵器のハイテク化が進んだ今、その国の経済力は、戦争遂行能力に直結しています。戦争の問題=お金の問題なのです。

 

■結局のところ軍事費は経済水準で決まってくる

 

戦争にかかるコストとひとくちにいっても、その範囲や規模は様々です。かなり大がかりな戦争を遂行している時と、定常的な軍事活動しかない時では、必要なコストは変わってきます。

 

また大規模な戦争は長期にわたることになりますから、各年度の支出と戦費の総額にはかなりの乖離が生じます。

 

まずは、特に大きな紛争が発生していない平時における軍事コストというものを考えてみましょう。

 

図1平時における各国の軍事費とGDP(国内総生産)の大きさを比較したものです。当然といえば当然ですが、世界最大の経済大国である米国の軍事費は突出しており、年間70兆円以上の金額を軍事費に支出しています。日本の国家予算(一般会計)が年間約100兆円ですから、米国は日本の国家予算に近い金額を常に軍事費として支出しているわけです。

 

次に金額が大きいのは中国です。中国の軍事費はここ10年、驚異的なペースで増加しており、周辺各国に脅威を与えています。中国はすでに年間25兆円程度を軍事費として支出していますが、中国政府の透明性は低く、総額でどの程度の支出があるのか、外部からは見えにくい状況です。実際にはもっと金額が多いという説もあります。

 

軍事費に対する支出の絶対額が同じでも、負担の大きさは国によってバラバラです。経済力がある国は、総額が多くても、無理なくそのコストを負担できます。一方、経済水準が低い国は、軍事力の維持が大きな負担になることもあるわけです。

 

北朝鮮のように国民を飢えさせてもよい国は別として、一定以上の生活水準がある国は、無尽蔵に軍事費を使えるわけではありません。最終的に軍事費は、GDPの一定割合に収まってくることになります。

 

ロシアは、表の中ではもっとも国民生活に犠牲を強いて軍事費を捻出している国ですが、それでもGDPに占める軍事の割合は4.5%程度です。

 

米国は3.5%、中国は2.1%程度、日本やドイツは1.0%程度となっています。ロシアは、先進国と比べると生活水準が低く、現在の軍事費水準はギリギリのラインと見ることができます。一般的にはGDPの1%から3%程度の範囲が適正水準といえるでしょう。

 

ちなみに全世界では1兆7500億ドルの軍事費が支出されています。全世界のGDPは77.3兆ドルなので、GDPに占める軍事費の割合は、全世界を平均すると2.3%ということになります。

 

全世界の軍事費における各国の割合では、米国が35%、中国が12%となっており、米中両国で世界の約半分の軍事費を使っている計算になります。基本的に軍事力は、その国の経済力に比例するものです。平時の軍事費という点を考えると、世界第1位の経済大国である米国と、第2位である中国が世界の軍事費の半分を占めているという事実は、当然の結果と考えることができるでしょう。

 

近年は兵器のハイテク化がさらに進んでおり、経済力と軍事力の関係はますます密接になっています。最近、中国は経済成長が著しく鈍化していますが、それでも年数%の成長余力があります。GDPに対する軍事費の割合が米国よりも低いことを考えると、中国の軍事的脅威はまだまだ拡大する可能性があります。私たち日本人は、冷静にこの現実を理解しておく必要があるでしょう。

 

加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より。
加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より。

 

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本連載は加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より一部を抜粋し、再編集したものです。基本的に書籍が出版された2016年当時の記述となっており、各種統計の数字は2016年時点のものです。国際情勢が変化し、追記が必要な部分については、著者注として補足しています。

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

加谷 珪一

祥伝社

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