昭和時代の名古屋。異業種から賃貸業をメインとする不動産会社の営業マンへ転身したある青年は、社長から突然「雑誌創刊」の指令を受けます。まったくの初心者が手探り状態のなか、雑誌の編集制作、販売経路の開拓と苦労を重ねますが、一気に報われる瞬間が訪れました。

分かりやすさで勝負した、雑誌名とロゴデザイン

雑誌作りの次のステップとして取り組んだのは、雑誌の顔というべき誌名とロゴデザインです。社内で誌名の候補を話し合い、編集プロダクションのメンバーとも協議をした結果、なんの雑誌かがストレートに伝わり誰にとっても分かりやすい「アパートニュース」に決定しました。ロゴは編集プロダクションのデザイナーが、目立つ赤地に白抜きの文字で視認性のよいフォントで作ったものでした。

 

もっと捻ひねりのある誌名やデザインも考えましたが、あえてシンプルなものを選びました。

 

万人受けして長く愛される商品というのは、いつの時代も「シンプル・イズ・ベスト」だと考えたからです。

 

誌名が内定した段階で、ほかに同じ誌名の雑誌はないかを取次に確認してみました。全国の雑誌を取り扱う取次なら、同じ誌名のものがあれば知っていると思ったからです。回答は「『アパートニュース』という名前の雑誌はほかに聞いたことがありません」とのことでした。

 

それなら大丈夫と安心していたのですが、念のために印刷前に誌名の商標登録とロゴマークの意匠登録をしようと特許事務所へ依頼したところ、なんと過去に東京の民間共同住宅の組合が、その組合の情報を会員に発信する新聞名として「アパートニュース」を商標登録していたことが判明したのです。ただ、商標登録の更新手続きをしていないようで数年前に効力期限は切れていました。

 

特許事務所からは「法律上問題なく日正の申請は有効である」とのお墨付きをもらいましたが、私はなんとなく後味の悪い感じが拭えませんでした。同名の新聞の存在を知っていて盗用したかのような気持ちになってしまったのです。

 

「法律上問題ないなら堂々と使えばいい」と言われればそうかもしれませんが、一度抱いてしまったモヤモヤはすっきりしません。会社の名前で出す大事な雑誌ですから、どんな小さなケチでも付いてほしくないという思いがありました。私はさっそく当該の組合に電話で連絡をし、翌日挨拶に上京しました。

 

組合の担当者にいきさつを説明したところ、私の対応から誠実さを感じ取ってもらうことができ「誌名は使って構わない」との快諾をもらったのです。

 

実は組合の「アパートニュース」も現役で、年に数回タブロイド版を発行しており、商標登録については、役員が入れ替わったことで更新を忘れてしていなかったそうです。しかし組合のほうは限られた少数の会員向け冊子のため、こちらの情報誌とは利害関係にないと言ってもらえました。むしろ「わざわざ遠方から許可を取りに来てくれるなんて」と恐縮されました。

 

私は義理を欠くことが嫌で筋を通しに行ったまでですが、了解してもらってホッと胸を撫で下ろしました。

 

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    加治佐 健二

    幻冬舎メディアコンサルティング

    メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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