日本は中国経済発展の原資を提供してきた
そこで、中国当局が腐心するのが発行する人民元の裏付け資産になるドル、つまり外貨準備を大量に保有することです。天安門事件はそのきっかけになりました。
1989年当時、人民銀行の外貨資産は人民元発行額に対してわずか8%でした。これでインフレになってしまうと人民元の信用が消失しかねないので、たとえ不況であろうと人民元の増発はできず、経済を成長させることができませんでした。
そこで人民銀行は1990年から人民元発行額に対する外貨比率を高めていきます。90年には同比率を二桁台にし、2000年には40%台とし、2007年には100%を超えました。その後、比率は下がり、2017年には70%を切りましたが、その後は65%台を堅持しています。
1980年代、1990年代に話を戻しますと、円はドルにいつでも替えられるハードカレンシーでした。中国にとって、日本の円借款はまさに干天の慈雨です。日本は中国経済発展の原資を提供したのです。
円借款で円が来た場合、その円をもとにして国内で調達できない物資を輸入でどんどん買います。新しい技術や新しい製品などもです。それで供給を賄えば、インフレにならずに済むわけです。要するに増えてきた需要に対して、外国の製品を入れていけば、十分供給が追いつくということです。
もし外貨の力を借りずにインフレになったとすると、人民元の通貨価値がどんどん下がります。そうしたら悪循環で、人民元で買える外国の物資が余計に少なくなり、経済の運営が非常に困難になってしまいます。
経済とはこういうもので、なぜ外貨が必要なのか、とくに発展途上国の場合はなぜ外貨を欲しがるのかというと、要するに自国にモノと技術がないからです。外国から買わないと需要に応じられないのです。
技術も人材も、例えば当時も国外に優秀な中国人がいましたが、そういう人たちは豊かな生活を捨ててまで中国には戻りません。
日中国交正常化後の中国にとって、円借款がいかに大事だったか理解できると思います。
いま中国に何かと圧力をかけられたり、いちゃもんをつけられたりしている我々は、いそいそと円借款を続けて、怪物を育てていたということになります。