「心不全の急激な悪化」を招く要因はさまざまだが…
心不全は増悪を繰り返しながら、どんどん重症化していく疾患です。そのため、いかに急性増悪を起こさないかが、心不全の予防や治療には重要です。
塩分や水分の取り過ぎ、過労、薬の飲み忘れなど、日常生活に潜む急性増悪のきっかけにはいろいろとありますが、なかでも多いのが感染症です。
感染症とは細菌やウイルスなど病原体が体内に侵入することで症状が出る病気の総称です。風邪や肺炎、気管支炎、インフルエンザなどが一般的ですが、ほかにもノロウイルスやロタウイルスなど、食中毒の症状を引き起こす感染症もあります。
なぜ感染症が心不全の増悪を招くのか?
いったいなぜ、こうした感染症が心不全の増悪を招くのか――心不全患者が気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症にかかると、発熱や頻脈、低酸素状態を引き起こします。すると心臓の仕事量が増大し、心不全の急性増悪が誘発されるのです。
また、感染症にかかると体内では常に炎症が起こっている状態となり、炎症性サイトカインという物質が放出されます。もともと心不全の患者は炎症性サイトカインの数値が高くなっているのですが、これが感染症を発症することによってさらに高くなるのです。この炎症性サイトカインは、心機能に対して抑制的に働くため、感染症によって炎症性サイトカインが増えれば心不全は悪化します。
その一方、心不全患者は呼吸器感染症にかかりやすいことも知られています。その理由としては、心不全の患者は心臓が拡大する「心拡大」の状態になっておりそれによって気管支が圧迫されて換気障害が起こっていること、また、肺がうっ血状態になっていて細菌が繁殖しやすいことなどが挙げられます。
さらに高齢者は免疫力が低下しているため、若い人に比べてそもそも感染症を発症しやすいのです。そのため、心不全を発症している高齢者は人一倍、感染症に気を付けなければなりません。
<感染症を予防するポイント>
感染症を予防するポイントとして手洗いやうがいを徹底する、外出時はマスクを着用する、人混みを避けることなどが大切です。また、部屋の湿度を常に50〜60%に保つと、鼻やのどの粘膜が適度に湿り気をもち、ウイルスなどの侵入を防ぐことができます。
さらに高齢者の場合は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種するのも効果的です。
肺炎球菌ワクチンは2014年から高齢者を対象に定期接種となっており、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳の人は接種することが可能です。またインフルエンザワクチンは自費診療になりますが、発症を減らしたり重症化を予防したりする効果を期待できます。例年、インフルエンザは12月〜4月に流行し、ピークを迎えるのは1月末〜3月上旬です。ワクチンの予防効果が現れるのは接種後2週間〜5ヵ月程度と考えられているため、ワクチンを接種する場合は早くて10月下旬、遅くても12月上旬に終えるとよいと思います。