(※写真はイメージです/PIXTA)

心不全の治療を継続しながら全人的苦痛を和らげ、QOLを上げるためにさまざまな点から介入していく…今後もますます重要になる「心不全の緩和ケア」について、“心疾患・心臓リハビリ”の専門医・大堀克己医師が解説します。

一度発症すれば治らない「心不全」も、緩和ケアの対象

慢性心不全は、急性増悪によって入退院を繰り返します。昨今では、そうした患者に対して緩和ケアを行う医療機関が増えています。

 

緩和ケアというと、末期がんの患者に対して提供されるケアというイメージをもつ人も多いのではないかと思います。しかし、緩和ケアの対象となるのはがんだけに限りません。

 

世界保健機関(WHO)は緩和ケアを、「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族に対し、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し、的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通してQOLを向上させるアプローチ」と定義しています。そして2014年の世界保健機関(WHO)報告によれば、終末期に緩和ケアが必要とされる疾患のなかで、心血管疾患は全体の38.47%を占めており、悪性新生物の34.07%を超えて第1位とされています。

 

こうした流れを受け、日本でも2018年度診療報酬改定により、緩和ケア診療加算の対象として末期心不全の患者が追加されました。

心不全における緩和ケアとは?

誤解されがちですが、緩和ケアとは決して「治療をやめること」ではありません。とりわけ心不全の緩和ケアでは、薬物療法などを継続しながら、QOLの改善を目指す治療のことを意味します。つまり心不全の緩和ケアとは、回復を諦めることではなく、QOLを改善・維持しながら、より良く生きるために行う治療のことなのです。

 

心不全の緩和ケアでは、医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士などの心臓リハビリチームが一丸となって当たります。たとえ心疾患が末期状態であっても、心臓リハビリを行うことによって筋力増加や歩行能力の向上を期待することはできますし、症状を緩和させ、QOLを高めることは可能です。また、そうした活動が患者にとって精神的な支えとなり、生きる意欲を感じさせることにつながるはずです。

 

具体的に心不全の緩和ケアが必要になるのは、心不全の進行を示す4つのステージのうち最後のステージD、つまり心不全が難治化している状態です(図表1)。この頃には、痛み、息苦しさ、だるさなどの「身体的苦痛」がひどくなりますし、不安やうつなど「精神的苦痛」が悪化してくることも少なくありません。

 

[図表1]心不全とそのリスクの進展ステージ

 

さらに、仕事上の問題や経済的な問題、家庭内の問題など「社会的苦痛」や、死生観に対する悩みや死の恐怖、人生の意味などに苦しむ「スピリチュアルペイン」も加わります。

 

これら4つの苦痛は合わせて「全人的苦痛(トータルペイン)」と呼ばれており、まさに、末期の心不全患者は全人的苦痛にさらされているといえるのです(図表2)。

 

飯塚病院 循環器病センターHPより
[図表2]4つの分類からなる全人的苦痛 飯塚病院 循環器病センターHPより

 

こうした全人的苦痛を解消するための取り組みが、緩和ケアです。

 

緩和ケアの方法は、病院に通院して薬物療法などの治療を行うだけでなく、「在宅」という手段もあります。患者や家族の希望があれば訪問診療や訪問看護、訪問介護などのサービスを受けながら、治療を続けることもできます。特に近年では国を挙げて地域包括ケアの重要性が叫ばれており、今後は在宅での緩和ケアを取り入れる医療機関もますます増えてくると思います。

 

世界に例を見ないスピードで高齢化が加速している日本では、今後も心不全の患者数は増え、患者の高齢化が進むと予想されます。そうした時代を見据え、心不全患者に対する緩和ケアに積極的な姿勢で取り組む医療機関が増えていることは、必然的な流れといえます。心不全の治療を継続しながら全人的苦痛を和らげ、QOLを上げるためにさまざまな点から介入していく、そうした緩和ケアは今後もますます重要になるはずです。

次ページ終末期では、約7割の患者が自ら意思決定できない

※本記事は、大堀克己氏の著書『心不全と診断されたら最初に読む本』(幻冬舎MC)を抜粋・再編集したものです。

心不全と診断されたら最初に読む本

心不全と診断されたら最初に読む本

大堀 克己

幻冬舎メディアコンサルティング

心不全と診断されても諦めてはいけない! 一生「心臓機能」を維持するためのリハビリテーションと再発予防策とは? “心疾患・心臓リハビリ”の専門医が、押さえておきたい最新の治療とリハビリテーションを解説します。

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