抗炎症・解熱鎮痛薬の「NSAIDs」は要注意
■NSAIDsは心臓や腎臓に負担をかける
心不全の薬と併用するのを避けたほうがよい、あるいは併用に注意を要する薬は、いくつかあります。その代表例が鎮痛薬としてよく用いられるNSAIDs(=非ステロイド性抗炎症薬)です。
NSAIDsは抗炎症作用があり痛みや炎症を抑えてくれますが、その一方、腎臓に負担を与えて尿量を減らし体内に水分を貯留させます。そのため息切れや下腿のむくみ、頻脈、不整脈など、心不全の症状を出現させることがあります。もし心不全の治療で利尿剤やACE阻害薬を服用している場合は、NSAIDsによりその効果が減弱してしまうかもしれません。
また、NSAIDsは心臓だけでなく腎臓の働きも悪化させるため、腎疾患がある人がNSAIDsを服用するのは危険です。最近ではドラッグストアでOTC医薬品を購入することができますし、NSAIDsも処方箋なく、入手することができます。しかし、心不全をはじめ心疾患のある人や、腎臓に障害をもっている人が自己判断でそうした鎮痛薬を使用するのは危険です。
■抗炎症・解熱鎮痛薬は「アセトアミノフェン」のものを選ぶ
心疾患のある人や腎臓に異常のある人が鎮痛薬を使う場合は、アセトアミノフェンを選ぶべきです。これは高血圧や心疾患、腎疾患のある人によく処方される薬で、NSAIDsとは作用機序が異なるため、心臓や腎臓に負担を掛けません。ただし、安易に自己判断で使用せず、事前にかかりつけ医へ相談することを勧めます。
抗がん剤
■投与終了から数ヵ月~数十年後に心不全を発症するリスクも
抗がん剤は、がん患者にとっては必須の薬ですが、がんの化学療法に伴って心不全が発症することは以前から広く知られており、特に、悪性リンパ腫や乳がん、白血病などの治療で用いられるアントラサイクリン系の抗がん剤は、心筋にダメージを与えることがあります。投与を終了して数ヵ月から数十年後に、心不全を発症する可能性があることも報告され注意が必要です。
高齢の患者の場合、がんと心不全を併発しているケースは少なくありませんが、その場合は抗がん剤の休薬期間を設けるなど対策が必要です。
「麻黄(まおう)」を含む漢方
■血圧上昇や頻脈、心筋の虚血が悪化するリスク
それから、「漢方薬なら天然のものだし、安全では?」と考える人も多いのですが、実は「麻黄(まおう)」という成分には注意が必要です。麻黄は風邪薬などにも含まれる成分で、非常にメジャーなものですが、実は、麻黄に含まれる成分「エフェドリン」は、中枢神経や交感神経を活性化し、不眠、発汗過多、動悸、精神興奮などの症状を引き起こすことがあるのです。ちなみにエフェドリンの構造は覚せい剤である「メタンフェタミン」とよく似ており、エフェドリンはスポーツドーピング違反物質です。
このエフェドリンを体内に摂取すると血圧上昇や頻脈が起きたり、心筋の虚血が悪化したりします。そのため、心不全など心臓に疾患のある人は、麻黄を含む漢方薬の使用には注意が必要です。また、同じく漢方薬の「甘草(かんぞう)」にも注意が必要です。これは、こむら返りなど、足がつったときの治療薬としてよく用いられる薬ですが、これを頻繁に服用すると血中のカリウム濃度が低下して、不整脈を起こしたり、血圧が高くなったり、動悸がしたりすることがあります。時々使用する程度なら問題ありませんが、頻繁に使用するのは良くありません。
ステロイド
■血糖値や血圧の上昇、動脈硬化の促進、不整脈を引き起こすことも
ほかに気を付けたい薬としては、ステロイドがあります。抗炎症作用がある薬として、外用薬だけでなく内服薬や注射薬など、さまざまな病気の治療に使われています。しかしステロイドは、血糖値や血圧を上昇させたり、動脈硬化を促進したり、不整脈を引き起こしたりすることがあります。
薬以外では、納豆、クロレラ、青汁、安価なヨーグルト
■「ワーファリンの働き(=血栓を防ぐ)」を打ち消してしまう
それから、心不全の患者は血液の流れが悪く、血栓ができやすくなっているため、それを防ぐためにワーファリンを服用していることが少なくありません。ワーファリンは血管内で血液が固まるのを防ぎ、サラサラの状態にする薬です。
しかし、納豆や海藻にはワーファリンの働きを打ち消す作用があるため、特にクロレラや青汁は避けたほうがよいです。安価なヨーグルトには、粘度を出すために海藻が使われていることがあります。購入するときは原材料を確認したほうが安心です。
大堀 克己
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
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