急激な温度変化は心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こす
ヒートショックとは、急激な温度差が体に与えるさまざまな影響のことをいいます。
ヒートショックがよく起こるのは、暖かい室内から寒い廊下・トイレに移動したときや、寒い脱衣所で洋服を脱いだあとすぐ温かい湯船に浸かったりしたときです。このような急激な温度変化が、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などを引き起こしてしまうのです。
いったい、なぜ、急激な温度変化が心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすのか――そもそも、人間の身体には恒常性という機能があります。恒常性とは、体温などを一定に保ち生命を維持するための機能のことで、例えば急に寒いところへ出ると、皮膚には鳥肌が立ちますが、これは毛根にある立毛筋が収縮するためです。かつて人類の祖先は全身が体毛で覆われており、寒いときには毛を直立させることで、寒さから身を守っていました。そのときの生体反応が、鳥肌として今も残っているのです。
反対に、暑いところへ行くと汗をかきますが、これも汗によって熱を放出することで体温を下げるためになります。このように、人間には恒常性という機能が備わっており、無意識のうちに体温を調節しています。
血管にも恒常性のための機能はあり、血管は寒いところでは収縮し、暑いところでは拡張します。血管が収縮すれば、血液の流れは速くなって熱も体の奥に伝わりやすくなります。反対に、血管が拡張すれば血液の流れは緩やかになり、熱の伝わり方もゆっくりになります。
しかし、こうした生体反応が急激なスピードで起こると、人間はめまいや立ちくらみを起こすことがあります。もし高血圧の持病があるなら、猛烈な勢いで流れだした血液の影響によって血管が切れてしまい、脳出血や脳梗塞を起こすかもしれません。
また、急激に血液や心拍数が上がったことで心臓に負担が掛かり、心筋梗塞や不整脈、心不全などを起こす可能性もあります。
2019年、ヒートショックにより5000人超が「溺死」
こうしたヒートショックを起こしやすいのは、高齢者です。なぜなら、高齢者は血圧が高い人が多く、さらに、加齢によって恒常性の機能が衰えているからです。そのため、急激な温度の変化に体が対応できず、脳や心臓にダメージを受けやすいのです。
特にヒートショックによる事故が起きやすいのは、入浴中です。厚生労働省の調査によれば、浴槽での溺死者数は、2010年には4467人でしたが、2019年には5690人となっています。つまり、9年間で約1.3倍に増加しているということです。
さらに、このうちの約9割が65歳以上の高齢者でした。さらに、ヒートショックに気を付けたいのは高齢者だけに限りません。糖尿病や高血圧、脂質異常症の人も、血圧が変動しやすく不安定になっていることから、ヒートショックのリスクは高いとされています。
そのためヒートショックのリスクを軽減し安全に日常生活を送るための対策を考えておくことが大切です。
ヒートショックのリスクを軽減する5つの対策
<①脱衣所と浴室を温めておく>
最もヒートショックにつながりやすいのは、脱衣所と浴室の寒暖差です。そのため、簡易ヒーターを設置して脱衣室を温めるべきです。もし簡易ヒーターの設置が難しい場合は、事前に浴室のドアを開けておくとよいと思います。
また、浴室の温度を上げておくことも大切です。もし浴室暖房乾燥機があれば使い、ない場合は、事前に浴槽のふたを開けておいたり、入浴前に温水シャワーを壁にかけたりすることで、事前に浴室を温めることができます。
お湯を張るときには蛇口ではなくシャワーを使うと、湯気が浴室内を循環し、効率よく温度を上げることができます。
<②お湯の温度は41度以下に設定する>
お湯の温度は41℃以下にします。熱過ぎるお湯は、急激に血圧を上昇させます。
<③入浴時は、家族にひと声掛ける>
家族と同居している場合、高齢者がお風呂に入るのは家族が在宅している時間帯にして、ひと声掛けてから入浴すると安心です。家族も高齢者が入浴しているときには、5分おきくらいに様子を確認するとよいと思います。
<④飲酒後や食後の入浴は避ける>
食事をすることで血圧が下がりやすくなるため、すぐに入浴すると失神するリスクがあります。また、飲酒後の入浴は事故死につながり兼ねません。
<⑤入浴前に血圧を測定する>
できれば、入浴の前に血圧を測定して、自分の体調を把握しておくとよいです。高齢者になると体調が悪くても、あまり気づかないことがあります。血圧が高いときは、入浴をやめておくか、普段以上に注意して入浴するようにします。
そのほか、入浴したあとも注意が必要です。温まった体が湯上がりに急に冷えて、数時間後に亡くなるというケースもあります。血圧の変動は入浴後数時間は続くため、お風呂上がりの急激な温度変化には気を付けなければいけません。
大堀 克己
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
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