「配偶者の死」への適応の仕方にも差がある?
知り合いに、104歳までオセロを日課にしていたというほど元気な祖母がいた人がいます。106歳で亡くなったそうですが、ご主人の存命中とその後ではかなり違ったと言います。元気なおばあちゃんとして近所でも、最後に入っていた施設でも有名になったのは、ご主人を亡くされたあとからだったようです。
ハーヴィガーストという教育学者は、高齢期の課題として「配偶者の死に適応すること」を挙げています。女性はこの課題をクリアする力が男性よりもあるということなのでしょう。
高齢男性の幸福感が配偶者の存在に大きく左右されてしまうのは、加藤登紀子さんの言う「2つ目の生活力」※のなさが大いに関係しているのだろうと思います。
(※ 「1つ目」はお金を稼ぐ力。「2つ目」は、自分の身の回りのことがちゃんとできる力を指す。)
高齢男性にとって配偶者は日々の生活を成り立たせる力そのもので、妻の死はそれを失うことに等しいのでしょう。
妻を失って大きく落ち込む要因には、妻への悔恨の念のようなものもあるかもしれません。人生を自分のために捧げてくれた妻への恩返しができなかったことへの後悔です。定年退職後に、高齢者住宅を買って住み替えたり、妻と海外旅行に出かけたりする男性の中には、「妻への罪滅ぼし」「これまでの恩返し」を動機としている人がかなりいます。
それでも、どれだけやっても妻に十分に罪滅ぼしや恩返しをできなかったという後悔がズシリとくる。妻を失って、初めてそんな気持ちになる人も少なくないはずです。
この表で、もう一つ興味深いのは、配偶者を除く同居家族の数。幸福感の高い男性は、同居家族2人と3人以上を合わせて36%ですが、女性では18%と男性の半分です。
つまり男性は親や子、孫なども同居しているほうが幸福感が高まるが、女性ではそうでもない。男性は家事などをしないから、賑やかなほうが楽しいと感じるが、女性は家族の人数が多いと家事などの負担が増えてしまって疲れるということでしょう。親の介護は妻が担うケースが多く、それが影響している可能性もあります。
このように見てきますと、高齢になると幸福感は上昇していきますが、あくまで平均的にはということであって、どのように暮らすか、精神的に成熟していけるかによっても違いますし、男女によっても幸福感が高まる要因は大きく異なることが分かります。
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川口 雅裕
NPO法人「老いの工学研究所」理事長。 1964年生。京都大学教育学部卒。 株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)で、組織人事および広報を担当。 退社後、組織人事コンサルタントを経て、2010年より高齢社会に関する研究活動を開始。約1万6千人に上る会員を持つ「老いの工学研究所」でアンケート調査や、インタビューなどのフィールドワークを実施。高齢期の暮らしに関する講演やセミナー講師のほか、様々なメディアで連載・寄稿を行っている。 著書に、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「速習!看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「実践!看護フレームワーク思考 BASIC20」(メディカ出版)、「顧客満足はなぜ実現しないのか」(JDC出版)、「なりたい老人になろう~65歳からの楽しい年のとり方」(Kindle版)がある。