幸福感の低い人が「目を向けがちなこと」
生涯発達心理学で知られるポール・バルテスは、「獲得・喪失モデル」[図表2]を提唱しています。
若いからといって獲得だけをしているわけではなく、様々な喪失を経験します。同じように、高齢期だからといって喪失ばかりしているわけではない。
身体の衰え、仕事がなくなる、収入が減る、配偶者の死など様々な喪失は経験するけれど、語彙が増えて洞察力が増すので表現が豊かになる、ものごとを多様な視点から見て評価できるようになる、自然やその変化に感動できる、物事の真贋が判別できるようになる、小さなことに満足できたり感謝できたりする。
特に、このような精神的、能力的側面で獲得できることは大きいはずです。この図を見れば、幸福感の高い人は「獲得」に焦点を当て、幸福感の低い人は「喪失」に目を奪われてしまっているのではないかとも思えます。
幸福を左右する要素は、男女で違う
幸福感についての調査で、最も興味深かったのは男女の違いでした。
[図表3]は、幸福感を80点以上とした人たちの家族構成ですが、幸福感の高い男性高齢者の78%は配偶者と同居しているのに対して、女性は46%に過ぎません。
幸福感の高い高齢女性の39%は配偶者と死別しています。同居家族をみても、一人暮らしでも幸福感が高い男性はわずか4%に過ぎませんが、女性では32%に上りました。
一目瞭然ですが、高齢男性の幸福感は、配偶者と一緒に暮らしているかどうかに大きく左右されます。妻が死ぬとあとを追うように亡くなってしまう男性が多いというのが、さもありなんと感じさせるデータです。
少し付け足せば、私たちが行った別の調査で、「今の配偶者と結婚してよかったと思うか」という質問に、「そう思う」「ややそう思う」を合わせて、男性では84%に上りましたが、女性では61%に留まっており、そもそも結婚や配偶者に対する満足度において高齢の男女では差があるという面もあります。
この調査に回答した女性に直接、話を聞いてみたことがあります。ガンで配偶者を亡くされていたのですが、幸福感のスコアがとても高かった方です。
「女性は、ご主人を亡くしても平気なのでしょうか?」と訊くと、その方は「主人が亡くなったときはゼロ点になったわよ。そりゃ悲しくて何日も泣いたもの。でもそこからグーっと(と、左手を右側にクロスさせながら)上がっていって、今は100点!」と活き活きとした表情で答えられました。