“対岸の火事”ではない…「業務上横領」事件
業務上横領をはじめとする企業不祥事はニュースなどで目にすることも多いですが、不祥事が発生するのは誰もが知る大手企業ばかりではありません。
大々的に報道されるような被害額の大きい横領事件のほかにも、報道されていないものまで含めれば、業務上横領事件の件数はかなりの数にのぼることでしょう。
どの企業にとっても、業務上横領などの企業不祥事は決して対岸の火事ではないのです。
「業務上横領」が発覚するまで
業務上横領は、親告罪ではありません。すなわち、被害者からの刑事告訴がなくとも、検察が公訴を提起できる犯罪です。
しかし、その性質上、業務上横領は被害者以外が被害を知ること自体が困難でしょう。そのため、実際は、被害者が被害の事実を知って刑事告訴をすることで警察が捜査に着手することが一般的であるといえます。
グローリー子会社社員による21億円横領事件
最近報道された業務上横領事件として、グローリー子会社社員による21億円横領事件が挙げられます。
2022年3月、東証プライム市場上場企業であるグローリー株式会社の子会社で社員による横領があったことが報道されました※。
※ 朝日新聞DIGITAL:子会社社員が21億円横領、17億円で馬券購入か 東証1部の企業で
この事件での横領額は13年間で計約21億5,500万円にものぼり、横領した金銭は馬券の購入や遊興費などに使ったと報じられています。会社がこの社員を刑事告訴したことも報じられており、詳しい事実関係は、今後の捜査、公判を通じて明らかになっていくものと思います。
社員による横領を「刑事告訴」する3つのメリット
1.刑事責任の追及
刑事告訴によって警察が捜査に着手することにより、横領事件の全容が解明されれば、横領した社員の刑事責任を明確にすることができます。
なお、業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役とされています(刑法253条)。
2.被害額の回収につながる
1度横領をしたら、たとえ全額を返済しても罪を免れるものではありません。しかし、量刑の決定においては、返済の有無や金額が考慮されることが一般的です。
このため、横領におよんだ社員としては、できるだけ刑を軽くするために横領金を一部でも返済しようとする可能性があります。その意味で、刑事告訴が被害金の回収につながる可能性もあるのです。
ただし上記のとおり、弁償は刑の減軽にもつながりますので、本人に対してより重い刑事処罰を望む場合には、弁償の申し出に対する対応を慎重に検討する必要があるといえるでしょう。
3.社内での再発予防
社内で横領が発覚しても厳しい処罰がなされないとなれば、他の社員のモチベーションに悪影響を与えるばかりか、横領や不正が繰り返されてしまうことにもなりかねません。
別途再発防止策の検討が必要であることはいうまでもありませんが、不正に対する責任追及の姿勢を明確に示すことは、社内の秩序維持や、同種の事案の再発防止にもつながります。
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