(画像はイメージです/PIXTA)

資産家の父が亡くなった際、妹は「子どもの相続は平等にするべき」と訴え、資産を多くもらおうとする兄をけん制しました。ところが、兄と、兄に甘い母親がタッグを組んだことで、妹は窮地に追い込まれてしまいます。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

「相続分の譲渡」で遺産分割を有利にすることが可能に

相続分の譲渡という制度については、あまり聞いたことがないという方がほとんどだと思います。

 

しかし、この相続分の譲渡は、使いようによっては、遺産分割をかなり有利にすることができる制度なのです。

 

今回は、この相続分の譲渡の制度について説明します。

 

共同相続人間で相続分の譲渡ができるという規定は民法にはありません。しかし、相続人の1人が第三者に相続分を譲渡したときは、共同相続人はその価額及び費用を支払えば買い戻すことができるという規定があることから、「相続分を第三者に譲渡できるくらいなのだから、相続人間でも譲渡できる」と考えられています。

 

相続というのは、親族間の問題なのに、法律上、第三者にも相続分を譲渡していいこととなっていることは、驚きですね。

 

ただ、相続分の譲渡の相手が第三者の場合は、相続は親族間の問題なので、第三者を排除するために、相続人が買い戻すことができることとなっているのです。

 

このように、共同相続人間で相続分の譲渡をすることは、法律上認められています。

 

したがって、相続分の譲渡は法律上認められている制度なので、陽子さんに判断能力があるのであれば有効で、花子さんは従うほかないとする選択肢②が正解となります。

 

相続分の譲渡はどうすればよいかというと、相続分を譲り渡す相続人と相続分を譲り受ける相続人との間で相続分譲渡契約書を作成し、相続人の1人から相続人の1人に相続分を譲渡するという合意をすればよいこととなります。

 

登記や預貯金の解約、株式等の名義変更などに利用する必要があることから実印を押して、印鑑証明書を添付しておいたほうがよいと思います。

 

この相続分の譲渡が有効で、しかも相続分の譲渡の当事者である相続人間で行うことができるということは、遺産分割においてどういう意味を持つかというと、花子さんが不満に思っているとおり、特定の相続人間で、その相続人の相続分の範囲ではありますが、他の相続人に無断で相続分を変更できるということなのです。

 

本件でいえば、遺産分割協議は、本来、陽子さん、太郎さん、花子さんの全員が合意しなければ、成立しないはずでした。だから、最初の「太郎さんが貸マンション(2億円)を相続し、陽子さんが自宅(1億円)、花子さんは金融資産(1億円)を相続する」という案の遺産分割協議は、花子さんの反対で、まとまりませんでした。

 

しかし、相続分の譲渡は、譲渡当事者である陽子さんと太郎さんの間で、花子さんの承諾がなくてもできることから、花子さんの承諾がなくても、太郎さんの相続分を増やすことができるということなのです。

 

したがって、相続分の譲渡は、法定相続分を変更するもので花子さんの承諾がないと認められないから、無効だと争うことができるとする選択肢①は誤りとなります。

 

このように、相続分の譲渡は、使いようによっては、一方の相続人に有利になり、他方の相続人に不利にすることが可能な恐ろしい制度なのです。

 

ただ、この相続分の譲渡は、陽子さんの相続のときに、陽子さんから太郎さんへの生前贈与として特別受益として取り扱われるとする最高裁判決がありますので、花子さんは陽子さんの相続の際に一矢報いることができる可能性があります。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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