いま、世界で最も注目されているイギリスのボリス・ジョンソン首相が、与党・保守党の党首を辞任するという。その奇抜な言動で、常に物議を醸し続けているジョンソン首相。2022年4月9日、ロシアからの侵攻で危機の真っ只中にあるウクライナの首都・キーウを電撃訪問し、世界中を驚かせた。なぜジョンソン首相は突然キーウを訪問し、ウクライナを積極的に支援したのか。

チャーチルのことを強烈に意識していると思われるジョンソンが書き下ろした評伝『チャーチル・ファクター』には、チャーチルは戦争を避けるためだけではなく、戦争の人間への衝撃を最小限にする目的で、科学技術イノベーションを推進することにエネルギーを注いだとチャーチルを評価する。

ボリス・ジョンソン著『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)から、「第12章 報復にはノー、毒ガスにはイエス」を抜粋してお届けする。

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チャーチルは、確かに海軍増強を指揮した

チャーチルに接見したフローラは、“男の子”が自分や夫のことを熟知していたことを知った。チャーチルは、垂れ下がったひげを蓄えたフレデリック卿が現地の草の掘っ立て小屋に火をつけ、数千人もの無防備な部族民を破裂弾や銃弾で殺害していたことも知っていた。

 

彼は「慢性的な流血」は「ばかげており、不穏だ」と報告していた。

 

「この地におけるわれわれの取り組みが、大英帝国運営の常識に暗い人たちのせいで、原住民の殺害や土地の収奪といったふうに不正確に伝えられている」

 

チャーチルはフローラに、あなたのやり方を認めないときわめて丁重に告げた。結果、統治についての考え方の違いによる争いとなった。チャーチルはルガード夫妻が西アフリカの「蒸し暑いロシア」で皇帝と皇后になる目論見を粉砕し、夫妻を香港に追いやった。フローラはことあるごとにチャーチルは間違っていると抗議し、銃による統治、しかも彼女の銃による統治のみがアフリカのような場所では有効なのだと言い張った。

 

チャーチルはナイジェリアにしがみつく必要はないと考えており、撤退に賛成だった。チャーチルが大英帝国を信奉していたのは事実で、1907年に植民地省副大臣としてケニアにいたときはその一部を併合したりもした。

 

しかし、マキシム銃ではなく鉛筆で地図上に線を引くことでそうしたのである。征服のための戦争、あるいは侵略のための戦争には賛同しなかった。1914年においても、1939年においても、イギリス人の参戦にそうした目的はなかった。

 

チャーチルはたしかに第一次世界大戦直前の数年間の海軍増強を指揮した人物である。まさにその通りだ。しかし軍国主義者として政界に入ったわけではなかった。1901年、議員としての初演説は保守党を大きく苛立たせた。奇妙なことにボーア人を支持していたからだ。

 

「私がもし戦場で戦っているボーア人だったら……」と言った後で、「戦場で戦っていたいと思う」と続けた。保守党の下院議員たちは「ちょっと、これは」とあきれた表情になった。「私たちを敵にまわしたいのだろうか?」と。

 

政治家になった当時から、チャーチルは父ランドルフと同様、過度の軍事費歳出を軽蔑する姿勢を見せた。1908年までに、チャーチルは、社会保障を充実させるために、ドレッドノート型戦艦への歳出増大に反対する運動を行っている。

 

海軍大臣に就任したときには、たしかに軍事費について見方を変えていた。自分が管轄する部署を拡大するのが大臣の役目であった。当時、すでにドイツの軍備拡張が明らかに問題視されていたが、戦争に向かう速度を鈍化させようとしたのはチャーチルだった。まさに彼こそが軍艦建設競争の休戦、つまり両側が猶予期間を設けることを提案した一人だった。

 

開戦直前にも、ドイツのアルフレート・フォン・ティルピッツ海軍元帥のところに行って、直接説得を試みようとしたのもチャーチルである。しかし外務省がこれを阻んだ。開戦の前夜、チャーチルは事態を収拾するために欧州の指導者と会合を持ち、議論を重ねた。こうした会合をチャーチルはのちに「サミット」と名付けた。

 

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    ※本連載はボリス・ジョンソン氏の著書『チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力

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    ボリス・ジョンソン

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