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親ヨーロッパ派、懐疑派から担がれるチャーチル
人々は今もチャーチルを、現代世界のさまざまな政治的難題の調停者として引き合いに出そうとする。これは彼の予言能力の証左である。彼が残した膨大な量の発言のなかからある意見を正当化したり、ある行動を承認した文言を見つけると、その言葉は稀有の賢人にして闘将であった故チャーチルからのお墨付きでもあるかのように大げさに扱われる。
彼の亡き魂が最も頻繁に相談を受ける難題は、イギリスと「ヨーロッパ」の関係をおいてない。この問題はチャーチル以降、すべての後継首相たちを悩ませてきた。ヨーロッパといかに付き合うかという問題は、時としてあまりにも険悪な対立を生み、政治生命の抹殺の危機に見舞われた首相もいる。
「ヨーロッパ」との関係はイギリスの主権、民主主義、大陸ヨーロッパ大同盟からの独立という遠大な事柄をめぐる問題であり、これはきわめてチャーチル的な論争である。1940年の英雄を範に取れば解決できそうな気がしてくる。
やっかいなのは、チャーチルが親ヨーロッパ派、ヨーロッパ懐疑派の両方から担ぎ出されることだ。両派ともチャーチルを崇拝し、予言者としてあがめている。そして時には、彼の言葉の意味や意図をめぐる論争が宗教的な大分裂のような激しさにまで発展するのである。
たとえば2013年11月、当時の欧州委員会の委員長マヌエル・バローゾは演説の中で、チャーチルが1948年に(それ以前もしばしば)統一ヨーロッパの創造の必要性について語ったことをそのまま引用し、ヨーロッパ懐疑派が優勢のインターネット上では雨あられのような攻撃を受けた。
ある懐疑主義者はチャーチルを“でぶの、うそつきの卑劣な男”と呼んだ。チャーチルを擁護し、バローゾを叩いた者もいた。このときの様子は、あるヨーロッパ懐疑派の人物が匿名で書いた記事からうかがい知ることができる。彼はある新聞のウェブサイトで仮名を使って以下のように書いている。
われわれは二流の、選挙で選ばれたわけでもない、無責任な外国人政治家(ポルトガル人のバローゾのこと)のアドバイスなどいらない。早いところやつがブリュッセルの街灯に吊り下がっている姿を見たいものだ。われわれに説教を垂れるのをやめて国に戻ってくれ。私はこの人物が大嫌いだ。すぐにでも死ねばいいと思う。ついでに彼のお仲間のEU委員、外国の奴らを含めたすべての欧州議会議員たちもそうすれば、イギリスに住む権利などない物乞いのような外国人たちも一掃できるだろう。
彼(この記者はたぶん男性だろう)の議論の是非はともかく、ここには明白な怒り、息が詰まるほどの憎しみがある。つまりポルトガル人であるバローゾが、ヨーロッパ統合を正当化するためにウィンストン・チャーチルを引き合いに出そうとすることに対する怒りである。
こういう文章を書く人々のあいだでは、チャーチルはテコでも動かないイギリスの頑固一徹さと独立自尊の確たる象徴と思われている。そのチャーチルがポルトガル人であるバローゾごときにヨーロッパ連邦主義者の味方として語られるなどとんでもないというわけだ。