サケ養殖産業から学ぶビジネス成功のカギ
サケ養殖産業の急成長は、近年の目覚ましい技術進歩を背景としています。陸上と海上の貯水池、淡水及び海水での育成、温度が厳密に管理された施設など、複雑なプロセスと設備が必要となる分野だからです。
その一方、気候変動により、新たなリスクにさらされていることもまた事実です。海水温と海面水位の上昇が、サケ養殖に必要な条件の微妙なバランスを崩し、収益に悪影響をもたらす可能性もあるからです。さらに有害な藻類や寄生虫の発生といった二次的な影響も、脅威のひとつでしょう。
実際に、たとえば世界最大のサケ生産国であるノルウェー・北海沿岸のサケ養殖場にとっては、気候変動が極めて局所的であることが大きな問題となっています。こうしたリスクを上手く管理できるかが、ビジネス成功のカギを握っているのかもしれません。
そこで、サケの養殖地域における水温や水位の今後の変化について予測の精度を高めたり、藻類の繁殖によって大きな影響を受ける地域を的確に予測したりするための研究などが進められています。
さらに、特定の国を地域ごとに分割し、基本的な海洋条件と起こりうる変動について評価するアプローチも検討されています。こうした分析の結果を養殖の判断材料として活かすことができれば、それぞれの養殖場をリスク別に分類し、投資対象として評価することも可能になるのです。
気候科学の活用でより適切な投資判断を
このような気候科学に基づく分析を実際の投資に活用しようとする動きは、すでに始まっています。
具体的には、サケの養殖に関する分析以外にも、気候変動、特に猛暑が食肉生産に欠かせない飼料の収穫量や価格に与える影響を分析し、食肉を大量に利用するハンバーガーチェーンへの影響を調べたり、鉱業ではオーストラリアやインドネシアで発生する豪雨と洪水が石炭鉱山の採掘量に甚大な影響をおよぼすため、その予測や被害を推計したりしています。
また、大学などの研究機関と協同して、気候科学に基づく分析を用いてリスクを正確に把握する動きも進んでいます。このような動きから、気候科学はさらに投資の分析にとって必要不可欠となっていくでしょう。
このほかにも、自然災害による物理的なリスクを環境・社会の両面から的確に把握するための方法など、気候科学の研究は日進月歩です。またそうした研究の結果を反映し、分析するためのツールなども、日々進歩を遂げています。
投資家は、より適切な投資判断、そして優れた投資成果につなげる方法を理解するにあたって、気候に関する知識を得ることも極めて重要です。気候科学と投資を組み合わせる手法は、そのための大きな助けとなるでしょう。
臼井 はるな
アライアンス・バーンスタイン株式会社
責任投資ヘッド
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