上場企業に人的資本経営を促す
企業の価値創造の源泉が、生産設備といったハードから知的財産などのソフトへと移行し、財務上の数値だけで企業の実力を図るのは難しいという考え方が広まっています。企業文化や人材といった無形資産に着目し、成長力を見極めようとする投資家は少なくありません。
女性管理職比率や男性育児休業取得率といった項目を有価証券報告書に記載することが義務づけられるのも、上場企業に人的資本経営を促そうとする狙いがあります。人材をしっかり確保し、生産性を高めていく重要性を企業が意識することで、リスキリングはますます注目されていきそうです。
ダイバーシティ&インクルージョンを進める理由
こうした流れを踏まえ、ESGを推し進める企業では、人的資本経営のポリシーとして従業員に対する「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂性)」を掲げるケースが目立ちます。
ダイバーシティ&インクルージョンという言葉からは、ヒューマニティといったある種の優しさを連想しがちですが、企業経営上での狙いは1歩踏み込んだところにあります。
たとえば、従業員の離職率を下げること。企業にとって就職内定者や貴重な従業員を失うことは高いコストをともないかねません。従業員の離職がもたらすコストとして、ミスの増加といった生産性の低下を指摘する調査もあります。
従業員が企業を評価するサイトを運営しているグラスドアによると、2021年は求職者の76%が、就職機会を評価する際にダイバーシティが重要な基準になると回答しており(海外での調査)、従業員を繋ぎ止めるためのダイバーシティ&インクルージョンという構図が見えそうです。
業績の向上もダイバーシティ&インクルージョンが影響します。性別のダイバーシティに関するスコアが上位20%に入るグローバル企業の過去3年間の株価を見ると、スコアが下位の企業の株価を約4%アウトパフォームしています。もう少し期間を長くした調査でも、同じような結果が出ています。ダイバーシティ&インクルージョンの浸透度は、投資家が企業を評価する際の軸の1つになりつつあります。