心筋梗塞では約6年間の死亡数が50%以上減少…注目される「心臓リハビリ」の効果【専門医が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「心臓リハビリ」とは、心不全をはじめとする心臓病の患者が、体力や精神力を取り戻し、再び社会や職場に復帰して病気の再発を予防しながら、健康的で快適な生活を送ることを目指すプログラムです。「運動療法」を中心に、「生活習慣の改善」「薬の内服」「カウンセリング」などを複合的かつ長期にわたって行う本プログラムは、一体どれだけの効果が期待できるのでしょうか? “心疾患・心臓リハビリ”の専門医・大堀克己医師が、具体的な数値を交えて解説します。

「心臓リハビリ」の効果

心臓リハビリの効果としては、以下のものがあると考えられています。

 

●運動能力が増加し、楽に動けるようになる

●狭心症や心不全の症状が軽くなる

●不安やうつ状態が改善し、快適な社会生活を送ることができる

●動脈硬化のもとになる危険因子(高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満)が軽くなる

●血管が自分で広がる能力(血管内皮機能)や自律神経の働きが良くなるとともに、血栓ができにくくなる

●心筋梗塞の再発や突然死が減り、死亡率が減少する

 

(※循環器病研究振興財団「知っておきたい循環器病あれこれ 心臓リハビリテーション入門」より)

心筋梗塞の場合、約6年間の死亡数が50%以上も減少

ここからは、心臓リハビリの効果を具体的な数字として見てみます。現在に至るまで、さまざまな研究が心臓リハビリの効果を明らかにしています。

 

例えば心筋梗塞のあとに心臓リハビリを行うと、行わなかった場合に比べて、心臓や脳梗塞など血管系の病気で死亡する率は低下することが明らかにされています。

 

また、最近の研究によれば、心筋梗塞になっても心臓リハビリを行えば、約6年間での死亡数は50%以上減少し、心筋梗塞にならなかった場合と同じ寿命が得られるという報告もあります。

 

さらに心不全に限っていえば、心臓リハビリを行う人は行わない人に比べて、心不全による入院も減少することが証明されています。それだけでなく、心不全以外の理由を含めても入院の確率が減るというのです。これは、心臓リハビリは非常に優れた予防医学の手段であるということの証明になります。

 

日本人の死因第2位である「心疾患(高血圧性を除く)」のうち、最も死亡率が高いのは「心不全」。しかもその5年生存率は50%以下と、日本人の死因第1位の「がん」より低い
[図表1]参考:日本人の心疾患(高血圧性を除く)による死亡数と死亡率 日本人の死因第2位である「心疾患(高血圧性を除く)」のうち、最も死亡率が高いのは「心不全」。しかもその5年生存率は50%以下と、日本人の死因第1位の「がん」より低い

 

心臓リハビリのすばらしい点は、患者の予後を良好にすることだけではありません。患者の自立を助け、QOLを上げることは、患者の世話をする家族や周囲の人たちの負担も軽減します。さらに、心臓リハビリは心臓病の再発を減らすため、国の医療費を削減することができます。アメリカでは、心筋梗塞や冠動脈バイパス術後に心臓リハビリテーションを行うと、医療費は約半分になるといわれています。

心臓リハビリの注意点:健康保険の適応対象

このように優れた効果のある心臓リハビリですが、注意しなければならないのは、保険適応になる疾患が限られているという点です。心臓リハビリに健康保険が適応される心疾患は、次の7つの疾患です(2021年10月現在)。

 

●急性心筋梗塞

●狭心症(冠動脈のカテーテル治療後も含む)

●心臓術後(冠動脈バイパス術、弁膜症手術、心臓移植なども含む)

●慢性心不全

●大血管疾患(大動脈瘤、大動脈解離、大動脈瘤術後、急性大動脈解離術後なども含む)

●末梢動脈疾患

●経カテーテル大動脈弁置換術後

 

保険が適用になるのは、リハビリ開始から150日間です(20分間を1単位とし、1回3単位が基本)。ただし、医師が継続の必要があると認めた場合は、150日を超えて健康保険が適用される場合があります(月13単位まで)。

 

1回あたりの費用は、医療費3割負担の場合約2000円、1割負担の場合は約700円です。

 

現在、心臓リハビリを行っている医療機関は限られていますが、その効果に着目した多くの医療機関が新しく取り組みを始めようとしています。なかには独自の取り組みや画期的なプログラムを用意しているところもあるので、万が一のときのために、あらかじめ調べておくとよいかもしれません。

【事例】心臓リハビリの「初日」と「3ヵ月後」の比較

私の病院は、身体機能や生活習慣の改善のために、そして生活の質を向上させるために運動療法を含めた心臓リハビリテーションを重点的に実施しています。

 

そもそも私の病院が心臓リハビリを始めたのは、私が心臓リハビリの先進国であるドイツを視察したことがきっかけでした。

 

当時、私の病院はある悩みに直面していました。心筋梗塞を発症した患者や心臓手術をした患者が、いったんは良くなるものの以前の生活に戻ると再び血糖値が悪化したり、体重が増加したりして、病気を発症する前の状態に逆戻りしてしまうのです。

 

患者に対し、どのような動機付けをすれば生活習慣の改善を促すことができるのだろうと苦悩していたとき、私はドイツで循環器疾患の診療に取り組む施設を見学する機会に恵まれ、心臓リハビリを体験することができました。

 

ドイツの心臓リハビリは、山岳地帯の自然を上手に取り入れたものでした。自然環境のなかでそれぞれが自分のペースで運動を行い心肺機能を回復させながら、運動能力を向上させ、免疫能を高めていきます。豊かな自然に囲まれての運動は生きている喜びを感じさせ、四季折々の自然のなかで体を動かすことは、変化に富んだ喜びを患者たちに提供していました。

 

幸いにして私の病院は北海道にあり、自然が豊富なエリアです。さっそく、ドイツ式の心臓リハビリを取り入れることにして、少しずつ整備を始め、2010年に心臓リハビリセンターを設置しました。

 

現在、私の病院ではドイツの心臓リハビリを参考に、独自の心臓リハビリを完成させ、「札幌モデル」として広く展開しています。例えば春には桜並木や新緑の公園でポールを使い約5キロのノルディックウォーキングを行いますし、夏には潮風を感じながら、石狩湾で砂浜ウォーキングを楽しみます。また北海道生まれのスポーツであり、クラブ1本とボール1個があればどこでもできる「パークゴルフ」も行います。

 

秋には周辺にある藻岩山や円山を標準速度の2倍の時間をかけたペースで安全に登りますし、冬には「歩くスキー」やかんじきウォーキングで新雪の上を歩く心地よさを味わいます。

 

もちろん安全性にも最大限配慮しており、常に患者の状態を確認し、患者個々の病状や体力に合わせてプログラムを提供しています。また定期的に心肺運動負荷試験(体力測定)を行い、運動内容と時間を調整しています。さらに、運動療法の最中には、心電図モニターで心拍数や不整脈出現の有無を確認しています。

 

外へ出掛けるときには除細動器をスタッフが背負って同行し万一のときにすぐ対応できるようにしていますが、日頃から一人ひとりの運動能力や身体状況を逐一把握していることが功を奏し、幸いにも、屋外での活動中に緊急事態が起きたことは今まで一度もありません。

 

私の病院での心臓リハビリを3ヵ月継続して受けた人たちに、その効果を確認するための調査を行ったところ、「全体的健康感」「身体機能」「体の痛み」などに改善が見られました(図表2)。
 

・対象:31人(男性16人・女性15人70.3±9.2歳) ・調査方法:SF-8日本語版を使い、外来リハビリ初回時と3ヵ月経過時に評価を実施

[図表2]外来リハビリ3ヵ月継続の効果(主観的QOL) ・対象:31人(男性16人・女性15人70.3±9.2歳)
・調査方法:SF-8日本語版を使い、外来リハビリ初回時と3ヵ月経過時に評価を実施

 

屋外での活動は、室内でのトレーニングでは味わえない爽快感や楽しさを感じさせてくれます。また同じように心臓病を患い、今も病気と闘っている人たちとともに汗を流し、語り合う機会を得ることは、「自分は一人じゃない」「みんな頑張っている」と、勇気を与えてくれます。

 

さらに、屋外での活動は患者の家族も自由に参加できるため、家族同士が患者の世話や介護での悩みを打ち明け合ったり、アドバイスをし合ったりすることもあります。

 

このように、人とのつながりをつくり、人としての尊厳の回復を促すことこそ「札幌モデル」のいちばんの特徴であり、メリットであるといえます。

 

「札幌モデルは、豊かな大自然があるこの地だからこそ」と思われるかもしれません。しかし、どんな街にも必ず活用できる環境があります。「自然がないから屋外での活動を行えない」と諦めるのではなく、「身近にある環境を活かすことで、どんな心臓リハビリを行えるか」を講じることが大事なのであり、独自性のある取り組みを始める医療機関がえることが、今後心不全患者がますます増えると予測されている日本において、大きな助けになるのではないかと考えています。

 

 

大堀 克己

社会医療法人北海道循環器病院 理事長

 

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社会医療法人北海道循環器病院 理事長 日本胸部外科学会指導医
日本外科学会認定医
日本医師会認定産業医

1968年、札幌医科大学胸部外科(現心臓血管外科)に所属して以来、今日まで一貫して心臓血管系と呼吸器の疾患に対する外科療法に携わり、現在はドイツのハンブルク心臓リハビリテーション協会と連携しつつ虚血性心疾患に対する心臓リハビリテーションに取り組んでいる。

著者紹介

連載心不全に負けない完全治療マニュアル

※本記事は、大堀克己氏の著書『心不全と診断されたら最初に読む本』(幻冬舎MC)を抜粋・再編集したものです。

心不全と診断されたら最初に読む本

心不全と診断されたら最初に読む本

大堀 克己

幻冬舎メディアコンサルティング

心不全と診断されても諦めてはいけない! 一生「心臓機能」を維持するためのリハビリテーションと再発予防策とは? “心疾患・心臓リハビリ”の専門医が、押さえておきたい最新の治療とリハビリテーションを解説します。

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