M&Aは金融機関や専門仲介機関への相談が多い
■M&Aの代表的な類型
中小企業のM&Aはどのように行われるのでしょうか。ここでは、代表的な手法を挙げます。
手法①:株式譲渡
現経営者が所有する株式を買い手(後継者)に売却することを指し、中小企業のM&Aでもっとも用いられる手法です。この場合、株主が現経営者から買い手に変わるのみですから、従業員との雇用関係を守りやすく、取引先・金融機関との契約関係などに変化がなく、事業承継後も円滑に事業を継続しやすいのが特徴です。
ただし、簿外債務(貸借対照表上に記載されていない債務)や現経営者が認識してない偶発的債務なども承継され、株式の売却価格が時価と比較して著しく低いと、時価で売却したとみなされて譲渡所得課税を受ける可能性があります。
手法②:事業全体の譲渡
設備や知的財産権、顧客など、事業に必要なものをすべて売却する手法です。対価は主に現金となります。この場合、株式譲渡と異なり譲渡する対象資産を特定するので、買い手は予期しない簿外債務などを承継するリスクを抑えることができます。法人だけではなく、個人事業主が次のオーナーに事業を承継する際にも有効です。
買い手が支払う金額は現経営者個人ではなく、会社に入るケースがほとんどなので、事業承継後に引退する場合には、あまりそぐわないこともあります。
手法③:事業の一部譲渡
事業全体のうち、個別の事業を売却して現金などを受け取る手法です。譲渡対象の資産が選別されるので買い手を見つけやすい事業や資産を譲渡したり、手元に残す事業を選別したりできます。ただし、雇用関係や不要資産は引き取ってもらうことができず、譲渡しなかった事業は現経営者の手元に残るので、事業全体の承継が完了するわけではありません。
他にも、自社と他社の株式を交換する「株式交換」、会社の全資産・負債などを他社と統合する「合併」、複数ある事業部門を切り出して売却する「会社分割」なども、M&Aで用いられます。
ただし先述したように、中小企業のM&Aでは株式譲渡がメインの選択肢となっています。
■M&Aにはサポーターの存在が不可欠
M&Aには専門的な知識が必要なので、金融機関や士業などの専門家、またはM&A専門の仲介会社などに相談しながら進めるのが一般的です。
基本的には支援機関を活用することになるでしょう。普段から接している税理士や会計士は相談しやすく、資金周り全般をサポートする金融機関の担当者も、相談相手として向いています。商工会議所・商工会はM&Aを含めた事業承継のセミナーを開催していますし、事業承継・引継ぎ支援センターは、買い手候補と引き合わせてくれます。さまざまな機関に相談し、買い手を探すのがポイントといえるでしょう。
なかでも金融機関は相談先として最適です。近年はメガバンクや多くの地銀が、自行内に事業承継のサポートチームを設けていて、相談からマッチングまでを支援しています。よって、M&Aを検討するならまず、取引先金融機関の担当者に尋ねてみることです。
実際はどうなのかというと、売り手として意向のある会社は金融機関や専門仲介機関に相手先企業の探索を依頼する割合が高く、「事業承継・引継ぎ支援センター」や「商工会議所・商工会」経由で買い手候補を探しています。中小企業の場合は費用の問題で金融機関やM&A仲介会社を頼ることができず、低コストで利用できる事業承継・引継ぎ支援センターなどがマッチングの相談に乗っていることがわかります。
瀧田雄介
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長