発達障がいが一般的に語られるようになりつつある昨今、子どもの症状を懸念する両親はいかに我が子と向き合うべきなのか。小児科医・鈴木直光氏が診断した症例をもとに解説します。

遺伝も発達障がいの原因の一つだが…

原因を突き止めるためにはどうしてもさまざまな検査が必要となってきます。ここで保健師が「先生、今の時点で何か診断はつきますか?」と尋ねてきました。

 

「これらの検査で異常がなければ、多動、自己中、マイペース、車に対する知識、ミニカーを綺麗に並べるこだわり、言葉の遅れなどから、知的発達症を伴った自閉スペクトラム症だと思われます。乳幼児期に、C君は1歳前から人見知りをせず、ご両親の後追いをしなかったそうですが、これは、C君がすでに1歳前の乳児期から症状が出ていたことを示しています」

 

ここで一度間をとり、より優しく語りかけました。

 

「C君自身はいい子です。中にある病気が悪さをしているのです。生まれついてのものであり、決してお母さんの育て方のせいではありませんよ」

 

私がそう話した瞬間、母親の目に急に涙がたまっているのがわかりました。

 

「ソファーの横にティッシュがあるから使っていいですよ」

 

C君の母親は、声を出して泣き始めました。当然です。今日の今日まで自分の育て方が悪かったと、毎日自分を責めていたのです。

 

ここでのポイントは、ミニカーで遊んでいるC君に聞こえるようにわざと大きめな声で「C君自身はいい子です」と自然に話すことなのです。文句ばかり言っている陰険なタイプの自閉スペクトラム症の子でさえ、この「いい子」ということばに反応して、少しはこちらの話を聞くようになります。

 

「遺伝も原因の一つです。先ほどの家族歴で伺ったことから考えると多分、おじいちゃんの遺伝でしょう。お父さんも似ているところがあると思います。でも、おじいちゃんが悪いわけではありません」

 

遺伝の話をすると、たいていの母親は自分のことだとしても納得し、大きくうなずきますが、父親は納得しません。遺伝と言われ、自分のことを否定された気持ちになり、中にはそんなわけはないと怒鳴り始める方もいます。

 

発達障がいは「害」ではありません。発達障がいが遺伝だからといって、父親や母親の遺伝子が悪いものだと言っているわけではないのです。

 

「○○ちゃんはお父さん似だね」

「口元はお母さんに似ているね」

「お母さんも体が弱いところがあったから……」

 

という会話がよくなされると思います。それと同じように、そのお子さんの特徴がどちらに似ているのかを述べているだけなのです。

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本記事は、2018年10月刊行の書籍『発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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