発達障がいが一般的に語られるようになりつつある昨今、子どもの症状を懸念する両親はいかに我が子と向き合うべきなのか。小児科医・鈴木直光氏が診断した症例をもとに解説します。

正確な診断をするために重要な「親御さんへの配慮」

大切なお子さんのことですから、感情的になったり、動揺しやすくなったりするのは当然ですが、普段のお子さんの様子を落ち着いて、ありのままに喋ってもらうことが診断では大切です。お子さんのことを一番近くで見ている親御さんの情報というのは、正確な診断をする上で、大きな助けとなるからです。

 

「何が一番心配ですか?」と私が聞くと、C君のご両親はお互い顔を見合わせました。そして、「言葉が出なく、落ち着きがないことです。勝手に他人の物も触ってしまいます」と迷わず母親が答えました。

 

その後も乳幼児期の行動からさまざまな質問に母親が答えてくれましたが、「お母さんお父さんどちらに似たのですか?」と尋ねると初めてそこで父親が声を発したのです。

 

「俺かな?」

「お父さんのご両親、つまりC君の祖父母のどちらに似ていると思いますか?」

「親父だな、一人で勝手にどこか行ってしまうし、自分の趣味にどんどんお金を使っていたから。自己中心的で、マイペースなところはそっくりだな」

 

車という一つの分野に対する知識の深さ、会話がマイペースなところを鑑かんがみて、C君は自閉スペクトラム症ではないかと推測しました。

 

ただし、この時点ではまだ親御さんには自閉スペクトラム症とは告知していません。いきなり本題に入るよりも、まず親御さんが心配していることから説明してあげた方が親切だからです。C君の場合、最初に挙げた言葉が出ないことが心配なので、その原因として何があるかをまず説明します。

 

「言葉が遅れている原因の検索をまずしなければなりません。一番心配なのは、難聴です。寝かせて行う聴性脳幹反応(ABR)という検査を受けてみてください。もし難聴であれば、補聴器で改善することが可能です。治せる病気でも、早く見つけなければ手遅れになります。それから脳波やMRIなど脳の検査も必要です。さまざまな病気が原因で言葉が出なくなることがあるため、採血も必要となります。これらの検査で異常がなければ、また相談に来てください」

 

言葉の遅れの原因となる疾患は、難聴以外にも知的発達症(精神遅滞)、自閉スペクトラム症の合併症としての知的発達症、特発性言語遅滞、養育環境・心因性、低体重出生、脳性麻痺の合併症としての知的発達症、口蓋裂、構音障がいなどさまざまなものがあります。

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本記事は、2018年10月刊行の書籍『発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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