商売が花開いた江戸時代、日本人が実践していた「商人道」と、最新鋭の「欧米ビジネス哲学」の共通点

交渉の前提

真っ当なビジネスを目指すのであれば、交渉によって構築された関係はあくまでも継続を前提とし、将来的に何度もお互いにリターンを得られるような協力関係を目指すべきなのです。

 

もちろん交渉の中には将来的な関係断絶を前提に臨まなくてはならないたぐいの交渉もあります。交渉相手が理不尽にこちらに損失をなすりつけようとしてくる場合や相手のビジネス倫理そのものに問題がある場合などです。但し、頻度としては一生に数度起こるぐらいのものではないかと思われます。

 

このような交渉への対処法もありますが、これは頻度から言って特殊な交渉という位置づけにすべきで、普遍化するたぐいのものではないと思います 。

日本の商人道の哲学

皆さんもご存じの通り、江戸時代には日本では泰平の世が300年もの間続きました。戦争のない安定した社会がそれほど長く続くことは世界ではかなり珍しいことだそうです。それもあって江戸時代にはビジネスが本格的に花開き、商品相場の仕組みなど当時の世界の中でも先進的なビジネス手法が編み出されました。

 

さらにその時代に活躍した商人たちにより商人道、つまりビジネスにおける経営哲学が形成され、今日の日本の経済社会に大きな影響を与えています。「お客様第一」「損して得取れ」「売り手よし、買い手よし、世間よし」「無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ」「浮利を追わず」「現金掛け値なし」などほとんどが江戸時代に確立された知見と言っても過言ではありません。

 

その中でも特筆すべきは決して利益優先の拝金主義ではなく、社会に貢献する確固たる信念哲学のもと営利活動を行うべきだと当時から説いていたことです。これは日本人としてもっと誇りに思っていいアセットではないでしょうか?

 

明治以降現在まで日本の経済界が輩出した名だたる経営者たちの考え方のバックボーンには、等しくそのような哲学があると思います。

 

21世紀に入り、格差の拡大や環境問題の深刻化など米国流の株主資本主義が曲がり角に差し掛かっている感があります。

 

そのような環境の変化において、近頃の欧米の先進的と言われる経営学書ので推奨されている考え方の多くは、実は日本の江戸時代に商人道として説かれていたものばかりではないかと思えてなりません。

 

これから詳しく取り上げていく交渉ノウハウのバックボーンとしても、このような日本の伝統的なビジネス価値観があることを最初に申し上げておきたいと思います。

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松永 隆

 

1983年 一橋大学法学部卒業。
住友商事㈱に20年間勤務。中国、米国、カナダにて海外勤務を経験。
帰国後、夢であったサッカー界に転職することを決意。
2004年 公益財団法人日本サッカー協会(JFA)に入局。
以後国際部部長、国際部担当部長として勤務。
2020年 退職後もJFA国際部コンサルタントとしてサッカー界に関わり続ける。
2021年 広島経済大学 経営学部スポーツ経営学科教授
JFA公認C級ライセンスコーチ、合気道初段。

本記事は、2021年6月刊行の書籍『ビジネスパーソンのための超実践的交渉術 ⽇本⼈の交渉のやり⽅』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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