M&Aを活用した事業承継は喫緊の課題
■規模の小さい企業こそ後継者不在が課題
事業承継系のM&Aは年々増加していて、2019年には616件を記録しました。未公表の案件も含めると、M&Aを活用した事業承継は確実に増えています。
前章で取り上げた、全都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数と成約件数も近年は増加の一途をたどっています。
新型コロナウイルス感染症の影響があり20年の相談件数は減ったものの、成約件数は過去最多を更新しました。同センターが手掛けるM&Aは多くが小規模案件ですから、メディアで報道される大規模案件だけではなく、中小企業のM&Aが増えていることもここからわかります。
背景として挙げられるのは、何度も述べてきたように、後継者不在企業の増加です。とりわけ、中小規模以下の会社は後継者の不在率が高く、M&Aを活用した事業承継は喫緊の課題です。このままだと価値のある会社が姿を消し日本経済に大打撃を与えます。
一つの会社がなくなることで雇用が失われ、取引先の経営にも響くなど、その影響は計り知れません。かつては当たり前だった親族内承継では世代交代が解決しなくなっていて、M&Aによる第三者承継は、社会基盤の維持という面でも有益といえます。資金が潤沢にあり、経営手腕のある会社に引き取ってもらうことで、さらなる成長も期待することができます。
M&Aは事業承継を解決するだけではなく、雇用維持、事業の維持・発展にも関係するのです。
■M&Aのイメージは大きく改善
日本でM&Aが活発になり始めたのは、1980年代後半のバブル期以降のことです。三菱地所によるロックフェラーセンター、ソニーによるコロンビア・ピクチャーズの買収は世界を驚かせました。
一方でバブル崩壊後は山一証券や日本長期信用銀行、日本債券信用銀行など大手金融機関が破綻・廃業・国有化されました。このうち長銀と日債銀は米系投資ファンドの傘下に入り、彼らは再生・解体後に株式を高値で売り抜き利益を得たことから「ハゲタカファンド」と呼ばれたのは印象的でした。
その後も金融や小売業界の再編、2000年以降の村上ファンドや堀江貴文氏がかつて率いたライブドア社による敵対的買収などがあり、国内においてもM&Aは周知されるようになりました。
過去のいきさつから振り返ると、「身売り」「ハゲタカ」「敵対的」といったワードがメディアを通じて報道されたため、M&Aに対するイメージは決してよくありません。
ところが近年は、事業承継の解決策であったり、経営危機に陥った企業を救済したり再生したりする目的で実施するケースが増えた結果、買収すること・売却することに対するイメージは以前に比べて改善しています。
東京商工リサーチの調べでも、買い手・売り手としてM&Aの実施を意向する中小企業があるとわかっていて、事業承継の選択肢として経営者の間で認知されていることがわかります。
瀧田雄介
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長