前回は、ライフプランを立てずに保険加入をするリスクについて説明しました。今回は、高額の生命保険加入が「家計の安定」をもたらす理由を見ていきます。

余裕のないライフプランでは、生活の安定は難しい

前回の続きです。では、逆さ富士が近所の裏山ぐらいにしか設定されていないとどうなるのか、具体的な数字を当てはめてみましょう。

 

連載20回のAさんのケースを思い出してください。仮にAさんのご家族がこれから生活していくには、月に20万円が必要だったとしましょう。Aさんは3000万円の生命保険に入っていました。

 

3000万円をAさんが定年になる予定の60歳までの25年間で割ると、1年に120万円、月にすると10万円。月に20万円必要ですから、10万円が不足します。

 

専業主婦だったAさんの奥様が、いきなり自分でそれだけの金額を稼ぐのは至難の業です。パートの仕事を見つけて月に8万円ほどの収入を得ることができましたが、以前よりだいぶ生活費を切り詰めて、ぎりぎりの生活が続きます。

 

これから子どもが大きくなり、教育費などもかかることを考えると、旅行などの楽しみは後回しにせざるを得ません。また進学にあたっても、選択肢は狭くなる可能性が高く、塾などに通わせるには仕事を増やさなければやりくりできそうにありません。

希望に見合う保険でなければ、加入する意味はない

では、Aさんの保険金が5000万円あったとしたらどうでしょうか。

 

25年で5000万円ですから、1年で200万円、月に大体16万円強という数字になります。奥様の収入の8万円を足せば、毎日の生活はまかなえる計算ですし、子どもが小さくてお金がかからない時期は生活費を節約して貯蓄に回せば、将来の支出増に備えることもできます。

 

もしくは反対にパートの仕事量を減らして子どもと過ごす時間を多くとり、少し大きくなってから仕事量を増やすという選択肢も選ぶことができます。

 

Aさんの場合、一般論で加入した3000万円の保険金では逆さ富士が近所の裏山ぐらいの高さでしかありませんでした。

 

しかし、きちんとしたライフプランを立ててピッタリサイズの5000万円の死亡保険に加入していれば、十分に富士山と釣り合うだけの逆さ富士を確保できていたのです。本来は、ここまで考えたうえで生命保険に加入するべきなのです。

 

もし、Aさんが自分の死後のことまで考えて、納得したうえで3000万円という金額を選び、奥様もそれに同意していたのであれば仕方がありません。たとえ朝から晩まで働きっぱなしになったとしても、奥様も納得がいくでしょう。しかし、おそらくそこまで考えずに一般論や相場で選んだ可能性のほうが高いはずです。

 

生命保険に加入するときに相場や平均といった一般論で考えるのはおかしいと筆者は再三言っていますが、ここで言うなら生きていくために必要なのは富士山なのに、逆さ富士の高さを日本の山の平均標高で設定してしまっているようなものです。

 

富士山は日本で一番高い山ですから、そこに日本の山の平均標高を当てはめても、確実に不足します。その意味を、皆さんに考えてほしいのです。そこに家族の将来を思いやるという視点はありません。

 

考えてみてください。せっかく、家族のために生命保険に加入し、毎月決して安くはない保険料を払っていたのに、それが家族の安心につながらないのなら意味がないとは思いませんか。

 

残された奥様がパートを掛け持ちして必死に働かなければならない、そんな未来のために保険料を払っていたのではないはずです。

 

では反対に、逆さ富士をエベレストの標高で設定しておいたらどうでしょう。少ないより、多いほうがよいのですが、必要以上に保険金の額を高くすると余計な保険料の負担が積み重なって月々の家計の負担になってしまいます。

 

そのためにも自分たちのライフプランを明確にし、オーダーメイドのスーツのようにぴっ
たりとフィットするような保険を作らなければなりません

本連載は、2015年6月26日刊行の書籍『死亡保険金は「命の値段」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

死亡保険金は「命の値段」

死亡保険金は「命の値段」

杉山 将樹

幻冬舎メディアコンサルティング

命とお金に関わる保険は、生きている限りほとんどの人にとって必要不可欠な金融商品ですが、近年、その種類や保障内容が多様化・複雑化しています。 加入者は要望に合わせて自由に保険を選べるようになったものの、その選び方…

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