中国解放軍が作戦計画で重視する「三戦」
■認知領域における戦い=認知戦
認知とは、理解・判断・論理などの知的機能を指し、精神医学的には知能に近い。心理学的には判断・想像・推論・決定・記憶・言語理解などを包括したものが認知である。
認知領域は、欧米、中国、台湾において注目されているのみならず、防衛省においても重視すべきであるという議論がなされているので、本稿において紹介する。なお、紹介にあたっては、防衛研究所の飯田将史氏の認知領域の戦いに関する論考を参考にしながら説明する。
■認知領域の重要性
中国では、作戦領域は物理領域、情報領域と認知領域に分けられる。
物理領域とは「伝統的な作戦領域であり、武器・装備、作戦プラットフォーム、軍事施設、地形などで、戦争に物質的な基盤を提供する領域」である。
また、情報領域とは「情報化戦争の出現にともなって、独立した領域へと発展した。情報が生成、処理、伝達、発信されるバーチャルな空間」だという。
中国の専門家は、戦争の形態が「機械化戦争」から「情報化戦争」へ、「情報化戦争」から「智能化戦争」へ変化してきたと考えている。「智能化戦争」においては、 AIを導入した賢い自律型の無人機が多用され、やはりAI、そして量子コンピューティング技術などの進展による優れた情報処理能力を獲得した機械が人間の指揮官の決定を補助する「人機共同決定」が主流となるという。
かつて「機械化戦争」から「情報化戦争」への変化にともなって、戦争での勝利を決定づける作戦領域は物理領域から情報領域へと移ったが、「智能化戦争」においては認知領域での行動を通じて決定的な勝利を得ることができるという。
海軍工程大学の李大鵬は認知領域を「最重要な作戦領域であり、感知、理解、信念、価値観といった意識が構成するバーチャルな空間」と定義し、「多くの作戦領域のなかで、認知領域はもっとも重要な作戦領域である。 戦争は認知領域から始まり、認知領域で終わる。認知領域は、戦争の目標領域であるだけでなく、戦争の最終領域でもある。智能戦争では、認知領域の役割と地位が前例のないほど高まった」と指摘している。
■三戦と認知戦
解放軍では、「輿論戦」「法律戦」「心理戦」からなる、いわゆる「三戦」が作戦計画において重視されているといわれているが、このうち「輿論戦」と「心理戦」はとくに認知戦と重なり合う部分がある。
解放軍では、「智能化戦争」に関する議論が活発化する以前から、認知領域に関わる重要な作戦の一部として「輿論戦」や「心理戦」が研究され、また実践されてきた。
輿論戦は、敵対する双方が輿論を武器とし、様々な伝播手段と情報資源を利用することによって、戦争の重大な問題に関する世論を誘導する戦いである。
法律戦は、法律を武器として法律上の優勢を奪取し、政治的な主導権と軍事的な勝利を勝ち取るための戦いである。
心理戦は、特定の情報とメディアを運用し、理性的な宣伝や抑制と抑止、感情の誘導を通じて、相手の心理と行動に影響を与える戦いである。
三戦は、非武装力をもちいた政治作戦の範疇に入り、非暴力的な「ソフト殺傷」であり、「人間の認知領域に作用するもの」である。