米中対立は「民主主義VS専制主義」
米国のジョー・バイデン大統領は2021年3月の記者会見で、米中のせめぎ合いは「21世紀における民主主義と専制主義との戦いだ」と表現した。「民主主義」対「専制主義」という構図は、2021年3月18日にアラスカでおこなわれた米中の外交トップ会談でも明確であった。
この会談で中国側の外交トップの楊潔篪は、世界的な支配者としての米国の役割に公然と異議を唱え「米国には上から目線で偉そうに中国にものを言う資格はない。中国と交渉をしたければ、相互尊重の基礎を守れ」「中国の首を絞めようとすれば、結局は自分の首を絞めることになる」などと米国を厳しく批判した。
最近の中国要人の発言は、「中国の特徴のある社会主義」が米国流の民主主義よりも優れているという自信を背景にしている。そして、米国主導の「民主主義連合」が中国を封じこめようとしているとの認識に立ち、あらゆる手段でそれに対抗しようとしている。
中国があらゆる手段で米国を中心とする民主主義陣営に対抗しようとする際に、米国の同盟国である日本も攻撃の主たるターゲットになっている。だからこそ、「日本は戦時中である」という認識になるのだ。
筆者は、『現代戦争論―超「超限戦」』で、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦、AIの軍事利用を中心に現代戦の一端を紹介した。これらの戦いが中国要人の発言にある「あらゆる手段」になるのだ。
本稿においては、『現代戦争論―超「超限戦」』執筆以降の最新情報を踏まえて、すべての領域(領域は「戦う空間」のことで、「ドメイン」ともいう)を使い、軍事的手段や非軍事的手段などあらゆる手段を駆使した戦いである「全領域戦(All-Domain Warfare)」(全領域戦は筆者の造語)について紹介したいと思う。
全領域戦の特徴は、①あらゆる領域を使用すること、②軍事的手段や非軍事的手段などあらゆる手段を活用すること、③軍事作戦が主として戦時におこなわれるのに対して、全領域戦は平時と戦時を問わずおこなわれること、④いままで平時と思われていたとき(戦争には至っていないとき)をとくに重視しておこなわれることである。
■「平時と戦時」の概念の変化
平時と戦時の概念の変化について説明する。
●昔は、平時と戦時を明確に分けるという非常に単純な考え方であった。
●自衛隊は、平時からグレーゾーンのときを経て有事になるという考え方をするようになった。このなかでグレーゾーンとは平時でも有事でもないその中間の期間や事態のことだ。例えば、尖閣諸島に中国の武装漁民が大量に押し寄せてくる事態などで、この事態では自衛隊を防衛出動させることはできず、自衛隊抜きで対処しなければいけない、非常に難しい事態となる。
●米陸軍はその作戦構想「多領域作戦(MDO:Multi-Domain Operations)」において、期間を競争(Competition)と紛争(Conflict)のふたつに分けている。つまり、昔でいうところの平時は文字通りの平和なときではなく、競争相手国と競争している期間だと解釈したのだ。この解釈は適切で、中国やロシアはこの競争の期間を重視して情報戦、宇宙戦、サイバー戦などを仕掛けてくる。
●米海軍はその作戦構想「統合全領域海軍力(Integrated All-Domain Naval Power)」において、日々の競争(Day-to Day Competition)から危機(Crisis)を経て紛争(Conflict)になると考えている。
●米空軍はその作戦構想「全領域作戦(ADO:All-Domain Operations)」において、協力(Cooperation)から競争を経て武力紛争(Armed Conflict)になると考えている。